DEATHNOTE

□ゆめうたかたのきみ
1ページ/2ページ



「くすぐ、ったい」

くすくすと吐息で笑いながら身をよじる。
せめてもの抵抗と重なる体の間に差し入れられた細腕をやんわりと掴み、ゆるやかな動作でベッドに縫い付けた。
立派なまごうことなき成人男性のくせに、標準の域を出ない僕の左手だけでその両腕がまとまってしまう。

儚い、とか。
脆い、とか。

それ以上に、綺麗だ。
凄く、とても綺麗だ。

きみが。

僕の体で覆いきれる。
空いた右腕で、その細い腰ごと抱き締められる。
ぎゅ、と。
本当に音がするくらいに抱き締めて。
必然的に唇は合わさる。
優しく押し付ければ柔らかい感触。
それと、熱がじわじわと、共に広がっていく、唇から。
頭が、くらくらする。
夢中でその全てを追った。

すべらかな肌とか。
髪の毛からはいい匂いがするし。
舐めた涙は甘かった。
一生懸命なあえぎ声が可愛い。
どこが感じるのかもどこが悦いのかも。

ああ、


どくん

どくん

あるものが、心臓から断続的に打ち出されて、全身へ巻き散らされる。
多くは脳へ。
動かされたそこは、あるものを認識しようと一つの文章を弾き出す。



きみが



いとおしい
























「……あ…―――――…」

声というか、音。
マウスピースから出るような、それにしてはえらく間抜けてた。
暗闇で、窓から差し込む光源を頼りに自分の手をみる。

ぐぅ、ぱぁ、ぐぅ。

指鉄砲をつくって、ひしゃげてみる。
丸。
うん、もう、ちょっと。

…そうだこのくらい。

「このくらいの細さだ」

改めて確認して、やっぱり細いなぁとか思う。
もう片方の手が暇だったので、自分の肌を撫でてみる。
それなり、まあまあ。
どうやったらあんなにすべすべになるんだろう。
そのまま指を動かして唇。
ふにふに。
けれど、熱がない。

とくんとくんとくんとくん

一定すぎる穏やかすぎる。
こんなのは違う。
当たり前だ。
今は、ひとりだから。

ぼくだけだから。

今。


「きみはどこにいるんだろうね」

あるいは、今やっと生を受けたのだろうか。
もしくは、今すでに死に呑まれたのだろうか。
世界のどこかで。
それこそきみは今、昇る日を見ているのかもしれない。

此方の月は、光り始めたばかりです。


姿の見えないかのきみへ。

きみの声を知っている。
きみの細さも知っている。
匂いも、感触も、味だって。
綺麗であることだって。
だから僕は、きみがきみであることなんてすぐに分かるんだ。

だから。

だから、

「あいしてる」

いつかその言葉を囁こう。
いつかきみを探し出して。
きっと。
きっと。

伝えに行こう、この熱を。
きみを優しく抱きながら。
必ず。

今は見えないきみを、この目に焼き付けてしまおう。
そう、あと、僕が知らないのは愛しいきみのその姿。
絶対に、きみを。





きみを、愛そう。










今日も、どこかにいるきみの欠片を探してる。



END.



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ