Present

□甘い火傷に口付けて
1ページ/2ページ



「…っ」
「っ竜崎!」
がちゃん、という音に振り返ると、先刻紅茶を煎れたばかりのカップが床に落ちて割れ、紅茶の染みが広がっていた。
「…月く、」
「何やってんだ、馬鹿!火傷しなかったか!?」
駆け寄ってその細い手首を掴むと、案の定裸足の足を庇ったと見られる両手の甲は真っ赤になっている。
「冷やさないと…!」
「大丈夫ですよ、月君」
ひら、と片手を振って呟く竜崎を半ば強引に引っ張り、洗面台まで連れていくと勢い良く出した流水に竜崎の両手を突っ込んだ。
「…冷たいです」
「我慢しろ。水ぶくれになるから」
「…優しいですね」
「竜崎の手が使い物にならなくなったら、大変だろ。捜査にはパソコン使うんだし」
そう言うと、竜崎はふつりと押し黙って水の流れるざあ、という音しか聞こえなくなった。
「…竜崎?痛い?」
ふいに黙り込んだ横顔を見つめて尋ねると、竜崎は振り返りもせずぽつりと呟く。
「………わざとです」
「え?」
「…わざと、です」
わざと、火傷したんです。そう言って振り返った竜崎の漆黒の瞳は、強い、そして危うい光を湛えていた。途端に、その漆黒が、歪む。
「……月くん、私を…」
私を、見て。その竜崎の言葉を遮る様に、細い身体を抱きしめる。強く、強く。
火傷をして真っ赤な両手の甲に軽く口付けて、誰よりも強い中にまるで幼子の様な脆さを併せ持つ、腕の中に収まる彼を思った。そして、この人を守らなければ、と強く。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ