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□03:奇跡の調べ(後編)
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キーンコーンカーンコーン…

始業五分前のチャイムだ。
この時間から正門前は毎朝戦場と化す。
百何十人という生徒が、文字通り狭き門を目指し我先にと殺到するからだ。
それはさながら地獄絵図である。
多くが学友を引き倒し踏み越えてでも遅刻絶対ラインを越えまいともがくため、最悪死亡者も出かねない。
しかもこれは生徒の良心に任せるしかなく、現段階での最上策として、教師陣は今日も今日とて地獄の門の番人として立ちはだかるのであった。

決して緩くない急斜面を疾走してくる一団を見てとり、千牙は嘆息した。
今週中当番なので、まだまだこの光景を見なければならない。

(こういうところに使う体力があるなら頭に回せ)

別に千牙は勉強勉強と煩いタイプではないのだが、つくづくそう思ってしまう。
いつものように、迫る遅刻予備群を押しとどめ、歩かせて門をくぐらせる。
門さえ抜ければ、この学校は土足可能なため下駄箱がないし、学年やクラスに応じて近道が変わり、一ヶ所に多人数が集中することもなくなる。
要は、最初にして最大の関門は正門だけなのだ。
それでもやはり渋々苛々と歩く生徒と目を合わせないように手際よく流していると、追加がやってきたようだった。
まだ増えるのかと思い、呆れたような諦めたような表情で見遣る。

「お…」

千牙は軽く目を張った。
そしてすぐにやれやれといった体で苦笑する。
意識はしていなかったが、よく響き通る声は難無く耳に届いた。

「お前のせいで遅れたじゃんか!俺無遅刻皆勤賞狙ってんのに」
「僕のせいじゃないだろう。それにまだ遅刻すると決まったわけじゃない」
「もう五分もねぇよ!ああああ俺一番端の教室なのにっ!」
「ほら佳澄、此処から歩きだ。将棋倒しは嫌だろう」
「う――――!!」

ほぼ一方的な文句の言い合いをしながら歩く彼等の顔に、暗い影は全く見られない。
かわりに佳澄の顔が少し赤かったが、わめいてるせいだろうと千牙は思った。

「若さって…いいな…」

うっかりもらしたそれを耳聡く聞き付けた女子生徒に、先生親父臭ーい!と言われ、今日一日しばらくへこむことになるのだった。




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