Original

□リセットボタン
1ページ/3ページ



画面は一瞬途絶えて、また再生される。





「またやってんの?」

あきれた声が病室に響く。
広いとは言っても個室。
部屋の奥にいる自分にも、それはよく届いた。

「だったら、外に出してくれるのか」

液晶画面からは片時も目を離さずに応える。
相手を見て言ったところで、意味など皆無だからだ。
もちろんいつもと同じ返答。

「だめ」

妖艶に笑う彼を、気配で感じとる。
開け放たれた窓の向こう、透き通る青空の、遥か下に緑の地面がある。
今吹く風は、そんな遠い世界を少しでも身近に与えてくれた。
けれどそれすら、閉ざされる。

「もー、病人のくせに、そんなかっこで風に当たってたら風邪引くだろ」

注意してるのに。
いつもいつも。

くすくすと、何がそんなに楽しいのか。
ぱたんという空気の摩擦音とともに、この部屋は一つの世界となる。
もう、向こうは別世界。
こちらは『此方』という世界。
別の言い方をするなら。

「大志」

背筋を甘く駆ける微電流。
吹き込まれた息の、鼓膜をなぶる声の、そのままの衝撃が全身を駆け巡る。

なんて甘美。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ