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□03:奇跡の調べ(前編)
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佳澄が定時に来ない


それが、本人の思う以上に大志を不安にさせていた。
確かに今日は日直だと言っていたのだが、それにしても遅い。
常には冷静沈着、悪く言えば大抵において無関心である大志は、こと歌劇部と佳澄の方になると、全く心配性となるのだった。
歌劇部はともかく、佳澄の存在がどんどん大きくなりつつあること、しかし大志はそれに気付いていなかった。
そのため、訳の分からない感情に内心動揺し、それが不安に拍車をかけていた。
その証拠に、いつになく思考回路の動きが悪い。
しかし、ようやくだんだんと考えがまとまってきていた。

「佳澄…」

今日の昼の、屋上の一件。
佳澄は、少し様子がおかしく思えた。

(何かあったのか)

ここにすぐ来れないような、何かが。
決断は速かった。
大志の感覚の上でに過ぎなかったが。

「先生、佳澄を探してきます」
「、そうか…!」

その時の千牙のやたら嬉しそうな、しかしもっと早くに気付けという呆れも滲ませた憔悴しかけた横顔を一度として見ることなく、大志は進路指導室を足早に出た。
佳澄が見たならば、驚いて本人なのか思わず確認してしまうほど、焦った表情で。




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