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□童話シリーズ『赤ずきん』
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のどがとてもかわいていたので、湖のみずをすくって飲もうと、そばまで近寄りました。
すると、誰かが倒れているのです。

「どうしたのかな」

気になって、そちらへ近付きました。
目はとじられていて、息もなんだか苦しそうです。
きのどくに思って、ちゃんと聞こえるよう、大きな声で呼びかけました。

「あのぅ、だいじょうぶですか?」

すると、まぶたがぴくりと動き、ゆっくりひらいていきました。
半分だけ見える真っ黒なひとみは、どこまでもふかく見えるほどすきとおっています。
とてもきれい、とかずみは思いました。

「…誰だ」

その声はひどくかすれていました。

「あの、どうしたんですか?」
「…しばらく何もたべていなくて…ようやく湖を見つけたが、もう動けなくて」

それをきくと、かずみは自分のかぶっていたずきんをぬいで、湖に走っていきました。
それで水をたっぷりすくうと、こぼさないようにそろそろと持ってきたのです。

「はいどうぞ」

息をつくひまもないぐらいいきおいよく飲むのを、かずみはじっと見ていました。
あれだけあった水は、もうありません。

「ありがとう。名前は、なんという?」
「おれはかずみ」
「かずみ…いい名前だな」

ほめられて、かずみは嬉しくなりました。
かずみは自分の名前がとても好きだったからです。

「あなたは、名前は?」
「ぼくは大志という」
「それもすてきな名前だね!」

かずみは、大志がとても好きになりました。
ほんとうはもっともっと話したかったけれど、今はおつかいのとちゅうです。

「いくのか?」
「うん、この先にある、おばあちゃんのおうちにおみまいなの」
「そうか、なら、ひきとめてわるかった」
「ううん、元気になってくれてよかった」
「…ありがとう」

ばいばい、と大志に手をふって、かずみはおばあちゃんのおうちを目指しました。
もういくらもありません。
病気だけれど、すこしでも元気だといいな、とかずみは思いました。




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