Amusement
□愛を込めて10の御題
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[6.I will love you always.]
カランカラン、と幸せの音が鳴り響く。
次いで、大きな祝福の歓声。
舞い散る白い花びらは紙で出来ているのだけれど、何故かとても綺麗で。
人々がぱっと左右に分かれ、開かれた道から、とりわけ純白を身に纏った男女が一組、降りてきた。
男性は照れたように頭をかき、女性は喜びに頬を染めている。
高らかに鳴る鐘の音は、この青空の果て、どこまでも響きわたるようだった。
「…いいな」
自分にすら聞こえていない、小さな呟き。
けれどその光景を見つめる瞳には、羨望が宿っていた。
「いいなあ」
澄んだ純白が眩しくて、目を細める。
大切な人が隣にいる幸せ。
それを自分の大好きな人達が祝ってくれる幸せ。
かなしむものは何もない、ただその幸せを噛み締めて、笑い合える幸せがそこにある。
そう思って、佳澄はもう一度呟いた。
それからよく見ると、今まさに花嫁が後ろを向いて、ブーケを構えていた。
宙を舞う花束。
裏返った叫び声と、一斉に高くあげられる手。
僅かにパサッという音が聞こえ、それから、女性たちの落胆に溜め息をついた。
けれどそれもまもなく、花婿や花嫁をからかい祝う笑い声へと変わっていく。
微笑ましそうに、反面羨ましそうに佳澄は柔らかく笑い、止めていた足先を元に戻した。
「…あれ?」
横を、向いてみれば。
いたと思っていた人が見当たらない。
もしや先に行ってしまったのかと前方を顧みると、
「――――うわっ」
いた。
存外至近距離で、多少後ろにのけぞった。
「佳澄」
「?」
バサ
呆気にとられる佳澄に、差し出されたのは、
「これ…」
花嫁が投げた、あのブーケ。
「おま、え、何で?」
「物欲しそうに見ていたから」
「いやその…」
ブーケを見ていたわけじゃない、という言葉は、喉を震わせる前に霧散した。
「欲しかったんだろう?」
お前のためにとってきたのだと、
そう、笑顔で言われては。
「…あり、がと」
照れ隠しにブーケに顔をうずめたが、かえってその仕草はあの花嫁のようで、何だかおかしくなった。
二人で顔を見合わせ、笑う。
もう、羨ましいとは思わない。
けれど。
「やっぱ、いいよなぁ」
あんな幸せ。
否、こんな幸せを味わえるなんて。
連れ添って歩く二人を、鐘の音がいつまでもいつまでも祝っていた。
End.