異性恐怖症
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色々とパニックに陥ったが、とりあえず震えていて動けない紫翠をベッドに運ぶ。
その間に紫翠は落ち着いたようだった。
『騙すような真似して…
申し訳ありません…』
それより、何故男装なんてしていたか、
右目を何故隠しているかが気になった。
右目は黒い左目とは違い、鮮やかな銀色だったが、失明しているようには見えない。
「なぁ、なんで?
その、男装とか眼帯とか」
やはり触れてほしくない話題らしく、狼狽えている。
しかし、これからも共に生活する部下なのだ。
こんなことにいちいち気を遣うわけにもいかない。
しばらくすると紫翠は覚悟を決めたようだった。
『右目は生まれつきこの色で、視力と動体視力がとても良いんです。
左目は普通ですけど…
でも
色が違うからっていう理由で、…っ
虐待を、受け、て…
最後には、捨てられちゃいました…』
自嘲気味に笑う彼女の目からは涙が溢れていた。
『男装は…、
家がなくて外で寝泊まりしていたときに、っ
無理矢理抱かれて…
それがトラウマになって、』
それからの彼女の話をまとめると、こうだった。
眼帯は幼い頃に受けた虐待と親に捨てられたというトラウマ、そして、並外れた視力、動体視力の制御のためにつけているもの。
男装しているのは、強姦されたことで生まれた、男性に異性として見られることに対する恐怖から。
男装すれば「抱く対象」として見られないから平気らしい。
そのトラウマは本当に酷いようで、しきりに前髪をいじって目を隠そうとしているし、紫翠はオレの手が届かないギリギリの距離にいた。
それ以上は近づけないのであろう。
それが可哀想で。
こんな感情は初めてだった。
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