その雇用主は?(完)


□第3章・・・邪な感情
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久々に風呂に入れた浩二は、ゆったりと日々の疲れを取ることができた。




「神、上がったぞ」





暫くして、浩二がタオルで髪を拭きながらリビングに戻ってきた。




すっかりイイ男になった浩二を見て、神はカットの仕上がりに再度満足して、満面の笑顔を浩二に向けた。




「うん!完ペキ!本当にカッコ良くなっちゃったなぁ〜。最初見たときと同一人物とは思えないくらいだよ」




ニコニコと自分に向けられた笑顔に、浩二の胸が思わずドキンと音を立てた。




(こっ、こいつ、やっぱめちゃめちゃカワイイッ!男のくせにその笑顔は反則だろうっ!思わず抱き締めたくなるぜっ!つーか、抱き締めちまえっ!)



「うりゃっ!!」




というかけ声と同時に、浩二はガバリと神を抱き締める。




一瞬、何が起こったのか分からずに神は硬直するが、直ぐにハッとする。




「ぎっっ…!ぎゃあぁぁぁっ!!なっ…なっなっ!何すんだよっ?離せッ!」




「ダァメ!」



ジタバタと暴れまくり、「離せ!」と喚く神を羽交い締めにして浩二は即答する。そして、神の頭を思い切りワシャワシャと撫でる。




「何でだよっ!?」




「んん〜〜っ?だってお前めちゃくちゃ可愛いからさ。抱き締めたくもなるだろう」




浩二は可愛くて仕方がないと言うように、神の頭を撫でながらスリスリと頬擦りをした。




「おっ、男がっ!可愛いとか言われてっ、喜ぶわきゃっ、ない、だろぉ〜〜、がっ!!」




言葉を区切るように言いながら、渾身の力を振り絞って、神はやっとの事で浩二の抱擁から逃れた。




ぜぇっ、はぁっ!と肩で息をして、神は動悸を静めた。




(やっぱ中身は怪しいオッサンかよっ!ゆっ、油断なんねーな……)




浩二の半径1mは離れた場所に後ずさった神は、警戒するようにサッと拳を構えた。




腕の中から神が離れてしまったことに、ちぇッと浩二は不服そうに口を尖らせる。



「いいじゃんかよぉ〜。お前見てると庇護欲駆り立てられるんだもんよ。俺さぁ、お前みたいな弟欲しかったんだよな。ちょっと生意気だけど、そこがまた可愛いんだよなぁ〜」




愛護心をくすぐられたようなフニャッとした表情で浩二は言った。




「お、弟?何だ、弟か。そっか…」




言いながらホッとすると同時に、何故だか下がった自分自身のテンションに、妙な感覚に捕らわれて、神は不思議な気分になった。




(??。何だろう?へんな気分だな。んん??……まっ、いっか)




取り敢えず気にしないことにする。




しかし、さっきの浩二のはしゃぎ様を思い出して、神は急に可笑しくなって思わずブッ、と吹き出してしまう。




「浩二って、年下の兄弟いないんだ?」




クスクスと目尻に涙を溜めて、神は花のように可愛らしい顔を綻ばせる。




年上の兄弟を持たない神は、年下扱いされて、可愛がられる事に慣れていない。初めての感覚に、何だかくすぐったい気分になった………が。




「いんや?いるぞ。ふてぶてしいのが約一匹」




「ふへっ……?」




予想がアッサリ空振りし、浩二のセリフに、神は思わずズルッとコケそうになった。




「何だよ?いるんじゃん。あんな言い方するから、てっきり弟いないのかと思ったよ」




「イヤ、だって実際あんな弟ヤだもんよ。ゴツくてデカいし可愛くねーよ。その点、神はビジュアルも申し分なく美人だし〜、ちょっと生意気だけど根は素直で可愛いし。イヤ待てよ?お前だったらいっそのこと恋人でもいいなぁ。ん?どうだ?神。俺とスゥィートな関係になるか?」




そう言って、映画のワンシーンの様に、浩二は神の顎に人差し指を添えて、クイッと上向かせた。
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