その雇用主は?(完)
□第5章・・・前触れ
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ベッドから起き上がった神は、身仕度を整える浩二の後ろ姿にドキリとする。バランスよく筋肉のついたしなやかな背中がやけに色っぽい。
何となく目のやり場に困ってしまい思わず目を伏せた。
「待たせたな」
声にパッと顔を上げると、そこにはシャツの襟元を大きく開け、洗いざらしのブルーのストレートジーンズに身を包んだ長身の男前が立っていた。
「じゃ、行くか」
「へっ?あ、うん……」
思わず見惚れてしまった神は慌てて返事をした。
つい昨日までは長髪、髭面、スウェットといういかにもな変質者だったのに、元の素材がいいからか、髪型と服装を変えただけでこれほどまでに様変わりするのはやっぱり詐欺ではなかろうか?と、神はつい心の中で洩らしてしまうのだった。
浩二の家を出て、二人で近所の朝市へ出向く。
住宅街を少し出た所に小さな商店街がある。
流石は地域密着型の商店街。まだ9時前だというのに殆どの店が開店準備を終えていた。
その並びに八百屋や精肉店が数店舗ある。小さな市場なので、品数は少ないが鮮度は申し分なく良い。そして何より価格がデパートよりも低価格だ。贅沢を言えばもう少し品揃えが良ければ最高なのだが…。
駅まで出て、電車一本乗れば、大きな街に出れるのだが、わざわざそこまで行くのなら、いっそのこと外食したほうがいい。
殆ど缶詰め徹夜状態で睡眠不足の浩二に、そんな面倒臭い事はさせたくないし、なるべく早く食事をとらせてやりたい。
二人で商店街を歩く。
「浩二、何食べたい?」
市場の前で品物を見ながら神は浩二に問い掛けた。
「う〜ん。そうだなぁ。和食……がいいな」
「和食?焼き魚とか味噌汁とかそーゆうの?」
「そうそう。そーゆうヤツ。あと煮物とかあったらいいな」
「OK。分かった」
リクエストを聞いて、神は品物を選ぶ。
「いらっしゃい!そこのお兄ちゃん、今日はアジが安くて新鮮だよ!どうだい?」
魚屋の威勢のいいおじさんがニコニコと品物をすすめてくる。