その雇用主は?(完)
□第6章・・・自覚
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暫くすると、身体も正常になり、神はようやく洗い物を続行することが出来た。
ある程度の事をしてしまった神は、外が暗くなりはじめた事に気付き、帰り支度を始めた。
支度を終えて、浩二の仕事部屋に向かった。
コンコン……。
「浩二、ちょっといい?」
「んー………?」
ドアごしに、声をかけると、ナマ返事が返ってくる。
そっとドアを開けて覗くと、机にかじりついている浩二の姿が見える。
集中しているのだろう。出来れば邪魔はしたくなかったが、神は言葉を続けた。
「仕事終わったから、今日はそろそろ帰るよ。夕飯と明日の分のご飯作って冷蔵庫に入れてるから、腹減ったらレンジでチンして食いなよ?」
「んー……。んっ?神、お前帰るの?何で?」
話し半分で聞いていた浩二は、「帰る」の言葉に反応し、クルリと神の方を向いた。
「何で…って。そりゃ帰るよ。自分ちあるんだから。それに、オレ、住み込みじゃないし」
浩二の意外な反応に、神は苦笑する。
「何でだよ?明日日曜だろ?今日も泊まればいいじゃねぇか」
帰ろうとする神を浩二は引き止めたいのか、もう一泊するように持ちかけたが、神は首を横に振った。
「そんなワケにはいかないよ。オレはここに仕事しにきてんだから。それに、明日はダチと約束あるんだよ」
「チッ…。ンだよ!マジメだなぁ。つか、ダチって誰だよ?お前、俺のことはほったらかしてそいつと出かけるっての?」
神にあっさり断られて、浩二は不機嫌そうに口を尖らせて文句を言った。
「ダチは最初に面接に来たとき一緒にいたヤツ。ていうか、オレ、日曜は休み希望してただろ?浩二OKしたじゃん!」
浩二の利にそわない言い分に、神は正当な抗議をした。
「うっ!確かにそうだが……ううぅ〜〜っ…、でもやっぱダメだっ!」
ワガママな浩二に、神は困ったようにため息をついた。
「ハァ〜…。じゃあ、オレにどうしろって言うんだよ?」
「とにかく帰るな!明日はここから行けばいいだろ?」
子供みたいに駄々をこねる浩二に、神は仕方がないと大きくため息をついた。
「ったくもう、しょうがないなぁ〜。分かったよ」
諦めて承諾すると、今の今まで拗ねていた浩二の顔がパッと明るくなった。
「ホントかっ?神〜ッ!だからお前好きだぜ〜!」
嬉しそうに甘えた声を出して、神を抱き締めて頬摺りする。
「あ〜も〜ッ!分かったから抱きつくなって!」
鬱陶しそうに浩二の肩と顔をグググッと押し退ける。
「そんらこといっへぇ〜。俺のことあいしひゃってるくへにぃ〜ッ」
顔を歪ませたままで、フニャリとだらしなく笑いながら迫ってくる浩二に、神は持てる限りの力で、押さえつける。