その雇用主は?(完)


□第6章・・・自覚
1ページ/5ページ

暫くすると、身体も正常になり、神はようやく洗い物を続行することが出来た。


ある程度の事をしてしまった神は、外が暗くなりはじめた事に気付き、帰り支度を始めた。


支度を終えて、浩二の仕事部屋に向かった。



コンコン……。



「浩二、ちょっといい?」


「んー………?」



ドアごしに、声をかけると、ナマ返事が返ってくる。



そっとドアを開けて覗くと、机にかじりついている浩二の姿が見える。



集中しているのだろう。出来れば邪魔はしたくなかったが、神は言葉を続けた。



「仕事終わったから、今日はそろそろ帰るよ。夕飯と明日の分のご飯作って冷蔵庫に入れてるから、腹減ったらレンジでチンして食いなよ?」



「んー……。んっ?神、お前帰るの?何で?」



話し半分で聞いていた浩二は、「帰る」の言葉に反応し、クルリと神の方を向いた。



「何で…って。そりゃ帰るよ。自分ちあるんだから。それに、オレ、住み込みじゃないし」



浩二の意外な反応に、神は苦笑する。



「何でだよ?明日日曜だろ?今日も泊まればいいじゃねぇか」



帰ろうとする神を浩二は引き止めたいのか、もう一泊するように持ちかけたが、神は首を横に振った。



「そんなワケにはいかないよ。オレはここに仕事しにきてんだから。それに、明日はダチと約束あるんだよ」


「チッ…。ンだよ!マジメだなぁ。つか、ダチって誰だよ?お前、俺のことはほったらかしてそいつと出かけるっての?」



神にあっさり断られて、浩二は不機嫌そうに口を尖らせて文句を言った。



「ダチは最初に面接に来たとき一緒にいたヤツ。ていうか、オレ、日曜は休み希望してただろ?浩二OKしたじゃん!」



浩二の利にそわない言い分に、神は正当な抗議をした。



「うっ!確かにそうだが……ううぅ〜〜っ…、でもやっぱダメだっ!」



ワガママな浩二に、神は困ったようにため息をついた。



「ハァ〜…。じゃあ、オレにどうしろって言うんだよ?」




「とにかく帰るな!明日はここから行けばいいだろ?」




子供みたいに駄々をこねる浩二に、神は仕方がないと大きくため息をついた。



「ったくもう、しょうがないなぁ〜。分かったよ」




諦めて承諾すると、今の今まで拗ねていた浩二の顔がパッと明るくなった。



「ホントかっ?神〜ッ!だからお前好きだぜ〜!」



嬉しそうに甘えた声を出して、神を抱き締めて頬摺りする。



「あ〜も〜ッ!分かったから抱きつくなって!」



鬱陶しそうに浩二の肩と顔をグググッと押し退ける。



「そんらこといっへぇ〜。俺のことあいしひゃってるくへにぃ〜ッ」


顔を歪ませたままで、フニャリとだらしなく笑いながら迫ってくる浩二に、神は持てる限りの力で、押さえつける。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ