その雇用主は?(完)
□第9章・・・居場所
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夕食の準備を整えた神は、浩二の仕事部屋に足を運んだ。
「浩二、出来たけど、リビングで食べる?それとも運ぼうか?」
そう声をかけられて、浩二は革張りの回転椅子をクルリと回して立ち上がって伸びをした。
「いや、リビングでいい。行こう」
言いながら、長時間同じ体制で固まった首を左右に動かした。
先を行く浩二の後姿を見ながら、疲れているのだろうかと神は心配してしまう。
ダイニングテーブルで向かい合って座り、二人は食事を取りながら会話をする。
他愛のない事を話しながら、浩二がふと思い立ったように言った。
「なぁ、神。考えたんだが、ここで一緒に暮らさないか?」
「え・・・?」
「自立することは立派だと思うが、お前はまだ学生だろう?何にしても、学生の独り暮らしってのは何かとやり辛いだろう?世間体もいいとはいえない」
「そりゃ、そうだけど・・・」
正論を突きつけられて、神は口篭ってしまう。
更に浩二は続ける。
「せっかくレベルの高い学校に通っててもそのイメージが邪魔して本当のお前を見てもらえないんじゃないのか?」
「それは・・・」
確かに、浩二の言うとおり、独りで暮らししていると、周りからの印象はあまり良くない。
今までのバイトだって、理由は様々だが、結局はそこを指摘されて辞める羽目になっていた。
自分本位で世間知らず。そんな風に見られることはしょっちゅうだ。
いくら成績が良くて、良い高校の特待生だろうが、神が独りで必至で真面目に生きていようが、周りはそうは見てはくれない。
実際、素行が悪くなくても、独り暮らししているというイメージで悪く見られてしまう。
「俺も一応ちゃんとした社会人だし、問題ないだろ。ここなら安心だし、俺もお前が傍にいてくれると嬉しい」
浩二の言うことはもっともだ。自分を必要と言ってくれる事も素直に嬉しい。だが、果たしてこのままそうしてしまっていいものだろうか?浩二の優しさに甘えて、いくら互いを想いあっていても、家族でも兄弟でもないのに・・・。
「気持ちは嬉しいけど・・そこまでして貰うわけには・・」
迷いながら答える神に、浩二はこう続けた。
「固く考えなくていい。つうか、ぶっちゃけ俺はお前と一緒に暮らしたいのっ!毎日顔見てキスしてイチャイチャしたいのっ!俺のこと好きなら分かれよ!この誘い当然OKだよな?OKだろ?よし決まり!」
有無を言わさない勢いで捲し立てられ、強制的に決定されてしまって、神は鳩が豆鉄砲食らったような顔でポカンとしたまま固まってしまった。
相変わらず浩二は俺様で強引だ。でも、浩二のこの強引さが、神にはうれしかった。
「・・・・って言うか・・、ぶっちゃけすぎだし。俺の意思無視だし。ワガママだし、俺様だし、強引だし、エロイしオヤジだし、変態だし・・」
「オヤジは関係ねーだろッ?」
羅列される単語があまりにも酷くて、浩二は思わずそう突っ込んでしまう。
「でも、嬉しい。浩二、ありがとう」
ふわりと花のように微笑んで、神は浩二の誘いを素直に受け取った。
その表情を見た浩二も、嬉しそうに破顔すると、向かい側にいる神の頭に手を伸ばして、くしゃくしゃと撫でた。
その日、神は約束どおり浩二と一緒に夜を共にすることとなった。