春と桜と恋心
□春。そして恋。
1ページ/100ページ
―――4月―――。
満開の桜並木の道の上に、溢れんばかりのピンクの花びらの絨毯が敷き詰められている。
川村 瑞希(カワムラ ミズキ)は、足元に広がる花びらの絨毯を忌々しげに蹴散らしながら、寮から校舎まで続く一本道を歩いていた。
「秋人のヤツっ、何だよ、昨日のあの態度!気に入らねぇっ」
桜の花にピッタリなフワリとして愛らしく、優しげな面持ちとは裏腹な、乱暴な言葉遣いで、昨日の出来事を思い出して瑞希は憤慨する。
昨日、瑞希は親友の佐藤 秋人(サトウ アキト)と喧嘩したばかりだった。
原因はいまいち理解不能だ。
瑞希と秋人は十年来の親友である。
幼い頃からウマの合う二人は、何をするにも一緒。
お互い趣味も思考も似通っている二人は、この春同じ高校に入学したばかりだった。
この私立白鳳学園は、県内でも一、二を争う有名な男子校だ。
進学率も就職率も申し分なくレベルが高く、遠方から通う学生も少なくない。
その為、学生が学びやすいようにと、学園から徒歩5分の場所に寮も設備されている。
かくいう瑞希と秋人も寮生である。
どこまでも気の合う二人は、示し合わせた訳でもないのに科も一緒、寮の部屋も同室というミラクルな偶然にも遇ってしまった。
ここまでくると、もう腐れ縁としか思えない程だ。
そんな二人が喧嘩らしい喧嘩をしたのは、長い付き合いの中でも、昨日が初めてだった。
昨夜、寮に着いたばかりの二人は、いつもの様に他愛のない会話を交わした後、寮官に部屋割りを訊ねにいった。
そこまでは良かった。
偶然にも同室を告げられたが、部屋に入ったと同時に、秋人は目に見えるほど不機嫌になった。
僅かに不穏な空気を感じ取ったが、瑞希はさして気にはしなかった。
届いていた荷物をほどいて、片付けながら瑞希は秋人に話しかけた。
「部屋まで一緒ってすげぇ偶然だよなぁ。でも良かったよ、俺、お前とだったら3年間有意義に過ごせそう」
高揚した声で言うと、思いもよらない答えが返ってきた。
「のんきなこと言ってんなよ。中坊ん時とは違うんだ。そういうワケで、お前ともライバルだからな。部屋では必要以上に話しかけんな。……ったく、同室なんて冗談だろ…」
最後の方は小さな呟きだったため聞き取れなかったが、十分悪意は感じ取れた。