その雇用主は?(完)
□第4章・・・泊り
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(う…わっ!)
迫ってくる浩二の唇を見て、思わずギュッと目を綴じた。
が、想像した感触は唇には来ず、代わりに頬に暖かい温もりが触れ、ちゅっと小さな音を立てて離れていった。
(アレッ……?)
瞑った目をパッと開いて、頬に手を当てる。
「えっ?」
バッと浩二を見ると、声を押し殺して笑っていた。
「ククッ、神、お前ホンットにかーわいいなぁ」
ニコニコしながら浩二は神の頭をグリグリと撫で回す。
クスクス笑う浩二に、からかわれたことを悟った神は怒りに顔を真っ赤に染めた。
「なっ……だっ……ばっ」
あまりの怒りに言葉にならない。
「じゃあ、おやすみ。淋しくなったらいつでも添い寝してやるからな」
軽い足取りで部屋を出てドアを閉めながら、浩二は茶目っ気たっぷりにウィンクした。
その顔に、神はようやく声を張り上げた。
「んなもんいらんっ!もう入ってくんなっ!変態ジジィッ!」
怒鳴り声と同時に締まるドア目がけてそばにあった枕を思いっきり投げつけた。
「あんのクソエロ変態オヤジッ!……人のことおちょくりやがって……」
最後の言葉はつぶやきのように言った。
浩二が出ていったドアを見つめる。
床に転がった枕を拾って、抱き締めながらベッドに寝転がった。
枕に鼻先を埋めて一言悪態をついた。
「…バァーカ………」
くぐもった声は枕に吸収されて直ぐに消える。
少しだけ火照った顔を隠すように、神は枕に顔を埋めて眠りに落ちていった。