その雇用主は?(完)


□第6章・・・自覚
2ページ/5ページ

「愛してないっ!つーか、仕事しろってばっ!!」



迫ってくる浩二に抵抗しながら叫ぶと、強引だった力が緩まり、フッと抱擁が解けた。



急に大人しくなった浩二を見た瞬間、神はザッと後ろに身体を引いてしまった。



浩二が頭をガックリと項垂れて、見るからに落ち込んでいたのだ。



「わかったよ…。仕事すりゃいいんだろ?」



そのままクルリと背を向けてトボトボと机に戻っていく



「え?あの」



「いいんだ。どうせ俺なんか、このまま原稿に埋もれて一人寂しく死んでいくんだ…」



「こ、浩二?」



「抱擁くらいは許してくれるって言ったくせに…」



そう言いながらチラリとこちらを恨めしそうに見る。それはそれは寂しそうな目で。



その目に、神は仕方なく浩二に謝った。



「あ〜も〜!分かったよ。俺オレが悪かったよ。これからはなるべく、い、嫌がったりしないから」



「ほんとか?」



拗ねたように言う浩二に、神は勤めて笑顔を作って、うんうんと頷いた。



すると、たちまち浩二の顔がパァッと明るくなった。そして、素早い動きで、再び神を抱き締めた。



「わっぷ!」



「んん〜〜っ。神、お前はやっぱりいい子だなぁ〜。」



嬉しそうに、頬擦りしながら浩二は神の頭をグリグリと撫で回した。



ぐしゃぐしゃになる髪を気にしながら、神は浩二の手を押さえつけた。



「分かったから、ぐしゃぐしゃすんのやめろよっ。たくもうっ」



上目使いで文句を言うと、浩二がふわりと優しく微笑んだ。



その笑顔に、神の表情も弛んでいく。



「ハァ〜。神、お前可愛い」



ムギュウと抱き締められ、大人しく浩二の腕の中に納まった神がボソリと呟いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ