その雇用主は?(完)
□第6章・・・自覚
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「愛してないっ!つーか、仕事しろってばっ!!」
迫ってくる浩二に抵抗しながら叫ぶと、強引だった力が緩まり、フッと抱擁が解けた。
急に大人しくなった浩二を見た瞬間、神はザッと後ろに身体を引いてしまった。
浩二が頭をガックリと項垂れて、見るからに落ち込んでいたのだ。
「わかったよ…。仕事すりゃいいんだろ?」
そのままクルリと背を向けてトボトボと机に戻っていく
「え?あの」
「いいんだ。どうせ俺なんか、このまま原稿に埋もれて一人寂しく死んでいくんだ…」
「こ、浩二?」
「抱擁くらいは許してくれるって言ったくせに…」
そう言いながらチラリとこちらを恨めしそうに見る。それはそれは寂しそうな目で。
その目に、神は仕方なく浩二に謝った。
「あ〜も〜!分かったよ。俺オレが悪かったよ。これからはなるべく、い、嫌がったりしないから」
「ほんとか?」
拗ねたように言う浩二に、神は勤めて笑顔を作って、うんうんと頷いた。
すると、たちまち浩二の顔がパァッと明るくなった。そして、素早い動きで、再び神を抱き締めた。
「わっぷ!」
「んん〜〜っ。神、お前はやっぱりいい子だなぁ〜。」
嬉しそうに、頬擦りしながら浩二は神の頭をグリグリと撫で回した。
ぐしゃぐしゃになる髪を気にしながら、神は浩二の手を押さえつけた。
「分かったから、ぐしゃぐしゃすんのやめろよっ。たくもうっ」
上目使いで文句を言うと、浩二がふわりと優しく微笑んだ。
その笑顔に、神の表情も弛んでいく。
「ハァ〜。神、お前可愛い」
ムギュウと抱き締められ、大人しく浩二の腕の中に納まった神がボソリと呟いた。