桜物語2

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「おっ晋哉じゃんか、お前も来いって!」




土方さんの部屋から戻る途中、広間から顔を出した藤堂さんに捕まった。




「お帰り千鶴」



「た、ただいま…」



「皆さんお揃いで何していらっしゃるんですか?」




広間には何故か山南さんの前に正座している千鶴の姿が…


微量に山南さんから殺気を感じるのは気のせいだと思いたい。


そんな山南さんの気に障らないようにと、藤堂さんは小さな声で話しかけてきた。




「いろいろあってさ、総司達が長州の間者を捕まえてきたんだよ」



「え…まさか千鶴が一緒に巡察に行っていたときですか?」



「だから"いろいろ"あったんだって…!」



「………」




千鶴が山南さんの前で正座をして小さくなっているのを見ると、彼女が何か関わっているようだ…。




「あれ、千鶴ちゃん正座させられてる」



「沖田くんもですよ。座りなさい。」




山南さんの刺のある言葉に、沖田さんも千鶴ちゃんの横にしぶしぶ座った。




「大したお手柄ですね。
桝屋に運びこまれた武器弾薬を押収し、古高俊太郎を捕らえてくるとは」




左腕を吊っている山南さんは穏やかに、しかし皮肉たっぷりに言った。




「そうするしかない状況だったんですよ。
いいじゃないですか、結果的に上手くいったんですから」



開き直る沖田さんの横で、びくびくしている千鶴はさらに縮こまっていた。




「…晋哉、」



「はい…なんですか?」




左之さんに呼ばれたので話しやすいように近くに座った。




「後で話がある」



「後で…ですか?」



「あぁ。」



「わかりました。
お部屋にお伺いしてよろしいですか?」



「すまねぇな」




どこか申し訳なさそうに苦笑する左之さん。

目の前ではまだ言い合いが続いている。




「そんなに怒ることないじゃないですか。
僕達は、長州の間者を捕まえてきたわけだし」



「怒ることではない?
沖田君は面白いことを言いますね」




…間違いなく新選組で鬼の副長の次に恐ろしいのはこの人だと思った。




「外出を許可したのは俺だ。
こいつらばかり責めないでやってくれ」




土方さんは部屋に入るなり、山南さんに声をかけた。

近藤さんも顔を見せ、2人は上座に腰を降ろした。




「土方さん、古高は何か吐いたのか?」




左之さんの言葉に、土方さんは焦った様子もなく頷いた。




「風の強い日を選んで京の町に火を放ち、その機に乗じて天子様を長州へ連れ出す。
-----それが奴らの目的だ」




土方さんの言葉は淡々としていたが、恐ろしいものだった。










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