桜物語2

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---戌の刻---

近藤さんは、同行してきた沖田さん、永倉さん、藤堂さんたちと共に三条小橋近くの池田屋を遠巻きに監視していた。

それにしても…嫌な気配がする。
同族の気配だ…




「……こっちが当たりか。
まさか長州藩邸のすぐ裏で会合とはなぁ」



「僕は最初からこっちだと思ってたけど。
奴らは今までも、頻繁に池田屋を使ってたし」



「だからって古高が捕まった晩に、わざわざ普段と同じ場所で集まるか?」



「普通は場所を変えるだろ?
常識的に考えて」



「じゃあ奴らは常識がなかったんだね。
実際こうして池田屋で会合してるわけだし?」




沖田さんたち幹部はひそひそと話しているが、近藤さんは小さな動き1つ見逃さぬようにと、じっと池田屋を見ていた。




「……(チッ)」




鈍ったな…
最近、屯所に籠もっていたから鬼が何人いるのかまでは読めない…

だが、同族がいることは確かだった。




「…さすがに、これはちょっと遅すぎるな」




永倉さんの言葉にふと空を見上げた。

池田屋についたときよりも月が傾いている。

連絡をしたはずの会津藩からの援軍がまだ到着していないようだ。




「近藤さん、どうします?
これでみすみす逃しちゃったら無様ですよ?」



「………」




沖田さんの言葉に、今までも黙っていた近藤さんは意を決したように立ち上がって隊士達を見渡した。

皆は同意を示すように強い瞳で近藤さんを見上げた。




「よし、行くぞ!」




そして先を進む近藤さんに続いて幹部達、隊士達も池田屋に踏み入った。




「会津中将お預かり浪士隊、新選組。
詮議のため、宿内を改める!」




高らかに、芯の通った声で宣言した。




「わざわざ大声で討ち入り知らせちゃうとか、すごく近藤さんらしいよね」




沖田さんが声を弾ませて楽しそうに言った。




「いいんじゃねーの?
…正々堂々名乗りを上げる。
それが討ち入りの定石ってもんだ」



「自分をわざわざ不利な状況に追い込むのが新八っつぁんの言う定石?」




永倉さんも藤堂さんも楽しそうに笑みを浮かべて踏み入った。




「御用改めである!
手向かいすれば容赦なく斬り捨てる!」




近藤さんを筆頭に激戦が始まった。




「晋哉、背中は任せたよ」




絶え間なく聞こえてくる怒号の中、沖田さんの言葉ははっきりと耳に入った。




「はい」










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