桜物語
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突然やってきた二人が話している間に、俺は刀の柄を握りなおすと千鶴ちゃんとの間を少し詰めた。
「(この子を死なせるわけにはいかない……)」
「でもさ、この子たちを殺しちゃうまで黙って見てれば僕達の手間も省けたのかな?」
「さぁな。…少なくとも俺たちが下すべき判断ではない」
二人が視線を向けた先からは人影の気配がした。千鶴ちゃんは気付いていないようだ。
「全く、運のないやつらだ…」
物陰から出てきた第三者に俺は刀を勢いよく振り下ろそうとした。が、
「動いたら斬るよ?」
「………」
俺が刀を振るより速く、首筋に刀が添ってきた。
俺は千鶴ちゃんに近づく第三者の男に集中しすぎて、いつの間に移動したのか、背後にきた茶髪の男に気付かなかった。
前を向いてみれば千鶴ちゃんも同じように刀を突き付けられていた。
「…逃げるなよ、背を向ければ斬る」
千鶴ちゃんが彼にコクコクと頷くのを確認すると、俺はゆっくりと刀を納めた。
「…あの、」
「…あぁ、ごめんね」
添えられている刀が退くと、俺は改めて辺りを見渡した。
「……(浅葱色の羽織の男が3人。先ほどとは比べものにならないな。逃げるのは難しいか…)」
千鶴ちゃんが腰を抜かして座り込んでいることを考えると、やはり逃げ出すのは不可能らしい
「副長、死体の処理は如何様に?」
「羽織だけ脱がせておけ。後は監察に処理させる」
彼らは平然と話していた。彼らの視線が死体へと向いている間に、俺はばれないように千鶴ちゃんに近づいた。まだ先ほどの出来事を理解できていないようだ。
「それより、どうします?この子たち」
「…屯所に連れていく。」
「あれっ?いいんですか土方さん。この子たち、さっきの見ちゃったんですよ?」
「いちいち余計なこと喋んじゃねぇ。下手な話を聞かれると始末せざるを得なくなるだろが」
「この子たちを生かしておいても、厄介なことにしかならない思いますけどね…」
ちらり、と彼らは私達の方を見た。どうやら面倒なことに巻き込まれてしまったらしい。
「殺せばいいってもんじゃねぇだろ。…こいつらの処分は帰ってから決める」
「…俺は副長の意見に賛成です。長く留まれば他の人間に見つかるかもしれない」
これが…人が毎日死ぬのが日常だというならば、京の都は相当狂っている…
ふいに一人が千鶴ちゃんに話しかけた。
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