桜物語
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千鶴は一先ず、新選組預かりとなった。
土方さんは俺が綱道さんという言葉に思わず声を出してしまったことを見逃してはくれなかったようだ。
「もう一度言う。お前は綱道さんを知っているのか?」
「知りません」
「言え。お前はどこまで知っている」
殺気だった声。
新選組が隠そうとしている事実を俺は知っている。
ピリピリした空気が部屋中を充満した。
「……貴方達が聞きたいのは、昨夜の出来事の"原因"を知っているかどうか、ですか?」
観念してそう言えば、幹部は殺気だち、千鶴は訳が分からず青ざめた。
「…トシさん、この子を部屋に戻してくるよ」
「っえ!?」
空気を読んでか、井上さんは千鶴を連れて行こうとした。
千鶴は俺が殺されると思ったのか焦っていたが、「大丈夫だから」と微笑むと渋々と出ていった。
「知っている事を全て話せ」
拒否権を与えない言い方に話すしかないようだった。
「……俺を拾ってくれた方が蘭方医でした」
「蘭方医だと…?」
「"薬"を知っているのならば、その方はもしや南葉雅樹(ナンバマサキ)では…?」
山南さんから放たれた言葉に頷くと言葉を続けた。
「雅樹さんは綱道さんと共に"薬"の改良を進めました。勿論、俺も…。しかし改良を進めるほどに、アレは作ってはいけないものだと気付いたのですよ。……率直に言いましょう、これ以上"変若水"の使用は止めてください」
「聞けねぇな、お前には関係ねぇ。」
「そうですね、関係ありません。貴方達がどこでいつ散ろうと俺にとってはどうでもいいんですよ」
「なら何故…」
「…………特に理由はありません。ただの気紛れですよ」
言い終えた後、部屋はシンっと静まった。
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