桜物語
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沖田さんは俺の腕を思い切り掴むと、部屋を去りぎわに振り返った。
「それじゃあ、左之さん。後でこの子部屋に連れていくからよろしくね」
引っ張られるように連れていかれたのは、たぶん幹部の部屋だろうか…、無駄なものがない質素な部屋だった。
「……ねぇ君さぁ、痛いとか言わないわけ?」
「……できることなら離して欲しいですね。ついでにこの縄も」
呟くように言えば、沖田さんは深く溜め息をこぼすと、縄を解いてくれた。
「おいで」
「……?」
不思議に思いながら、殺気がでてなかったのでゆっくりと近づくと、…何もしないよ、と言って引っ張られた。
「………私、衆道じゃありませんよ」
「知ってる。僕だってそんな趣味ないしね。…だからこの簪しまってくれるかな」
何もしないよ、と言ったはずなのに、不意に引っ張られて沖田さんに後ろから抱き締められる形で座らされた。
思わず懐に隠し持っていた簪を沖田さんの首に当ててみたのだが…
「だって君、女の子でしょ?」
「………」
「あれ、違うの?」
「………違いますよ」
「この簪は?」
「…大切な人の形見です。俺の物ではありません」
「…ふーん、そう」
何を思ったのか、沖田さんは俺の服に手をかけてきた。
「…何してるんですか。…やっぱり衆道ですか。首、斬りますよ」
「普通は、致命傷でも負わない限り、こんなに上まで包帯なんて巻かないよね」
「………」
何も言わずに黙っていると、沖田さんは包帯にまで手をのばしてきたので、流石にやばいと感じた俺は沖田さんの手を振り払った。
「…やっぱり」
「……」
沖田さんの腕から逃れ、少し距離をとって座ると、乱れた服を直した。
「…どうして気付いたんですか?」
「土方さんが千鶴ちゃんに男装の理由を聞いたときかな?君、土方さんから目線をそらしたでしょ?」
「………」
失態だった。
言われてみれば気を抜いていたのかもしれない。
「おそらく左之さんも気付いているかもね」
「!」
ありえない。一人ならまだしも二人となると、自分の腕も落ちたものだと実感した。
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