桜物語

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かけた月が高く昇った頃、屯所は静まりかえっていた。




「…」




俺はいったい此処で何をしているのだろう。
否、こんな所にいて何がしたいのだろう。

やはり一族から、兄から逃げてきたことへの罰なのだろうか…?




「…もう寝た?」



「!?、いえ」




襖の向こうから聞こえてきた声の主は、沖田さんだった。




「入るよ?」



「…どうぞ」




頭の整理がつかない今、あまり人と接したくないというのが本音だったが、預かりの身という立場でそんな我が儘は言っていられない。




「どうしました?こんな時間に」



「…君、何か隠してない?」



「何か、とは?」



「たとえば…雅樹さんに拾われる前の話とかさ」



「……それは、沖田さんには関係ありませんよね?」




この時、いつものように頭が回っていれば、その頃の記憶はありません、とか、嘘ついて逃げれば良かったんだ。

でも、心の隅っこで、助けて、と叫んでいる自分がいた。




「関係あるよ。だって…」



「やめてください」




助けてほしい。放っておいてほしい。




「沖田さん、明日から土方さん達は出張だと聞きました。明日は忙しくなるのではないのでしょうか?」




追い出すように言葉を投げ掛ければ、沖田さんは何も言わずに部屋から出ていった。




「……、(怒らせただろうか?)」




まだ、強くなれない自分がいた。






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