桜物語
□22
1ページ/1ページ
かけた月が高く昇った頃、屯所は静まりかえっていた。
「…」
俺はいったい此処で何をしているのだろう。
否、こんな所にいて何がしたいのだろう。
やはり一族から、兄から逃げてきたことへの罰なのだろうか…?
「…もう寝た?」
「!?、いえ」
襖の向こうから聞こえてきた声の主は、沖田さんだった。
「入るよ?」
「…どうぞ」
頭の整理がつかない今、あまり人と接したくないというのが本音だったが、預かりの身という立場でそんな我が儘は言っていられない。
「どうしました?こんな時間に」
「…君、何か隠してない?」
「何か、とは?」
「たとえば…雅樹さんに拾われる前の話とかさ」
「……それは、沖田さんには関係ありませんよね?」
この時、いつものように頭が回っていれば、その頃の記憶はありません、とか、嘘ついて逃げれば良かったんだ。
でも、心の隅っこで、助けて、と叫んでいる自分がいた。
「関係あるよ。だって…」
「やめてください」
助けてほしい。放っておいてほしい。
「沖田さん、明日から土方さん達は出張だと聞きました。明日は忙しくなるのではないのでしょうか?」
追い出すように言葉を投げ掛ければ、沖田さんは何も言わずに部屋から出ていった。
「……、(怒らせただろうか?)」
まだ、強くなれない自分がいた。
.