桜物語
□28,5
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--- 総司 Side ---
文久三年 十二月末-----。
雪が舞うなかで、物影から見た後ろ姿はどこか見覚えがあった。
「……蒼?」
「知り合いか?」
同じく物影から様子を伺っていた一くんに訊ねられた。
「あー、見間違いだったかも…」
まだその時は、まさか蒼が男装して京に来ているだなんて思っていなかった。
「動いたら斬るよ?」
「………」
でも近づいて見るとわかった。
この子は間違いなく蒼なんだって…
「……あの、刀を…」
「……あぁ、ごめんね」
名前は新崎晋哉らしい。
そんなことよりも会えたことが嬉しかった。
「そーちゃん、大人になっても蒼のこと忘れないでね!」
「うん。じゃあ、蒼ちゃんは大人になったら僕のお嫁さんになってくれる?」
「んー…そーちゃんが蒼より強くなったらね!」
「「約束!」」
だけど蒼は僕のことを覚えていなかった…。
悔しかった、憎かった…
「…所詮、俺は追われる身。貴方達が巻き込まれるのは目に見えています。俺としても、貴方達としても殺した方が得策かと。」
「…僕は新選組に危害を及ぼすなら斬るよ。それがたとえ女の子でもね」
僕は蒼のことをずっと想っていたけど、蒼は僕のこと覚えてすらいなかった。
殺したいくらい憎かった。
「関係あるよ、だって…」
「やめてください」
関係あるよ、だって…昔の蒼を知っているのは僕だけなんだから。
「なんだ、総司もいるのか」
「あれ、左之さんもう帰「左之さんお帰りなさい!」……」
嫌だった。
蒼が左之さんを見る目が嫌だった。
「見回り早くないですか?土方さんがいないからって今から永倉さん達と飲みに行こうだなんて考えないでくださいよっ?」
笑う顔が愛おしかった。
左之さんに向けられていることに腹が立った。
「…行くよ」
「え?」
「君は僕の小姓でしょ」
新選組にきてから笑っていない蒼を笑顔にさせた左之さんが嫌だった。
蒼を元気にさせるのは僕だ。
左之さんじゃない。
ねぇ蒼、君は僕のことを思い出してくれないの?
<後書き>
少し過去が出てきましたね。
ここまで沖田さんを狂わせるつもりはなかったのですが…υ
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