夜桜の舞う頃
□序章
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ザァァァァ…――ザァァァァ…―
今宵は風がとても強い。まるで木々が叫んでいるかのようで薄気味悪い。
月も、星も見えない夜。
何かの前触れだろうかと、貴族や民達は少しばかり怯えていた。
しかし…あてにする存在がいるので、結局は安心するのだが……
稀代の大陰陽師・安倍晴明――――――
◆ ◆ ◆
子の刻もとうに過ぎたような真っ暗な朱雀大路を明かりなく一人走る少女がいた。
まるで何かから逃げるように、必死に。しかし、少女は自分が何故走っているのかが分からなかった。
突然知らぬ地で目を覚ました。
確か「貴船神社」だとか書いてあった気がする。
そこからずっと走っていた。しかし息切れすることはなく…どうして走っているかなんて分からない……でも、どうしても走らなければいけないような気がして――――……。
何処へ向かっているのか、何から逃げているのか分からずに………
自分がどうして此処にいるのか、自分が何者なのか…それすらも分からないままに―――……
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