◇拍手お礼文◇



*銀新*(万事屋風味)







「はい、神楽ちゃん」



 ふわり、と柔らかなそれを首に巻きつけてやると、少女は嬉しそうにそれに頬を擦り寄せた。少女の髪色と同じ桃色のそれは、ひどく柔らかくて手触りが良く、少女はますます顔を綻ばせた。



「ありがとうアル! 新八。恐るべし、眼鏡の力ァ!」

「眼鏡関係ないから! ……まあ、喜んでもらえたなら、良かったけど」



 作った甲斐があったと言う新八に神楽はお前はいつかやると思っていたよ、ぱっつぁん、と返した。

 ――神楽の首に巻きつけられているもの…それは、桃色のマフラーだった。段々と寒くなって来たこの季節、神楽が寒そうに肩を竦めていたのに気付いた新八が、家にあった毛糸で編んだ手編みの品だった。

 簡単な編み方で作られたものではあるが、素人が作ったにしては中々の出来だと出来上がったマフラーを見て新八がこっそり自画自賛してみた一品だ。



「大分寒くなってきたからね。風邪ひくといけないから」

「……何とかは風邪ひかねぇっていうから、大丈夫だろォ」



 不意に銀時が横から口を挟んだ。二人のやり取りを眺めていた銀時が投げやりな口調で言うのに、どういう意味アルカ、銀ちゃん、と神楽が激しいツッコミを入れていく。新八はそんな二人のやり取りを横目で見ながら一つ息を吐くと、二人を放っておくことに決めて台所へ向かった。やることはいろいろあるのだし、二人のじゃれ合いは日常茶飯事なので、放っておいてもそのうち治まるだろう。―――何か言いたげに、銀時の視線が自分を追ってくることに気付いてはいたが、新八はあえてそれを無視した。









「あれ、銀ちゃん、マフラーは?」



 あくる日、三人でスーパーで買い物に行く際になって、銀時が普段しているマフラーをしていないことに神楽が気付いた。



「それがよォ、どうもどこかでなくしたみたいでよ、見つからねーんだよ」



 そう言って、ちらりと新八に視線を投げかけてくる。



「…………」

「…………」



 判り易い、判り易すぎると、新八と神楽は心の中でツッコミを入れたが、表情には出さず、新八はにっこりと笑った。

 そして、徐に箪笥に近寄り、何かを取り出した。



「はい、じゃあ、銀さんこれ」

「…………」



 笑顔の新八が手渡したものは―――商店の名前が印刷された手拭いだった。



「お金ないし、新しいマフラー買えないんで、これで我慢してくださいね」

「銀ちゃん、新しいお洒落あるな! 私にはとても真似できないお洒落ヨ!」

「…………」

「あ、そろそろ、タイムサービスが始まっちゃう。急ごう、神楽ちゃん」

「オー、これから戦ネ! 勝つのは私アルヨ!」

「…………」



 手拭いを手に固まったままの銀時を置き去りにして、二人はスーパーへと出かけて行った。









「……で、いつまでいじけてるんですか、アンタは」

「…………」



 ―――結局、銀時は固まったまま、使い物にならず、神楽と二人で買い物を済ましてきた新八は、いじけて畳の上にのの字を書く銀時に溜息を吐いた。



「全く、マフラーの一つや二つで、子供ですか、アンタは」



 その言葉に顔を上げた銀時に、新八は苦笑して見せた。



「銀さん、アンタ、忘れてるでしょう。自分が言ったこと」

「? 忘れてるって……」

「この前、テレビ見てたときのことですよ」



 何かのドラマだったか、どんな番組だったか、その辺は定かではないのだけれど。

 画面で女性が、男に手編みのセーターを渡すシーンがあったのだ。そのとき。

 ―――ああ、やだねェ。手編みの品なんざよ、一目一目に怨念がこもってそうで、嫌になんな。もらって困る品物だろうに、何が嬉しいんだか。

 そう、言ったのだ。



「―――もらっても困る、要らねーもんだって言ったの、自分でしょうが。なのに、何拗ねてんですか」



 自分のした発言をきれいさっぱり忘れていたのか、新八の話を聞いてきょとんとしていた銀時だったが、はっと気付いて慌てて首を横に振った。



「言ってない、言ってないよ。銀さん、そんなこと言ってません!」

「言ったんですよ。神楽ちゃんも聞いてます。なんなら、神楽ちゃんにも聞いてみますか?」

「言ってないったら、言ってねーもん! あれ、いつだ、いつ言ったんだ。何月何日何時何分何秒、地球が何回回ったときだ、コラァ!」

「逆切れすんなよ、オイィ! 小学生か、アンタは!」



 銀時の言葉にそう返してから、新八はやれやれと肩を竦めた。



「……全く、アンタって人は。素直に自分も欲しいって言えばいいのに」



 まあ、そこがアンタなんでしょうけど、と苦笑いしつつ、新八は近くにあった風呂敷を引き寄せてそれを解いた。

 ―――現れたのは、柔らかな青色をしたマフラー。

 目を見開いてそれを見つめる銀時に、優しく新八はその首にそれを巻き付けた。



「はい、銀さんの分。……全く、銀さんがあんなこと言わなきゃ、神楽ちゃんにあげたときに一緒に渡すつもりだったんですよ? おまけに素直に欲しいって言わずに勝手にいじけるし」



 銀時のマフラーが少々くたびれてきていることは知っていたし、神楽の分と一緒にあげようと銀時のマフラーも編んでいた新八である。なのに、先日の銀時の言葉で、素直に渡せなくなってしまったのだ。

 ―――すねていたのは、こちらも一緒なのかもしれない、と思い、新八は溜息を吐いた。



「今度はなくさないでくださいよ?」



 先程の明らかな嘘をからかうようにそう言うと、我に返ったのか、銀時は新八ィと言いながら抱き付いてきた。

 その勢いのまま、押し倒すように倒され慌てるが、銀時の拘束は緩まない。

 ふう、と新八は息を吐いた。



「………ホント、どうしようもない人ですよね、アンタってば」



 それでも、こんな子供みたいな大人が好きなんだから、どうしようもなさでは自分の方が上かもしれない、と新八は苦笑いを浮かべた。









 ―――余談。



「………ウザイ、ウザすぎるアルヨ!」

「…………」

「何とかするアルヨ、新八」

「………出来るんだったら、とっくにしてるよ、神楽ちゃん」



 神楽の冷えた視線と新八の溜め息の先には、家の中だというのにもかかわらず、マフラーをきっちり首に巻き付けた銀時の姿があった。あれから、文字通り肌身離さずマフラーを身に付けている銀時である。



「見ててウザイある! いい加減に外すヨロシ! 銀ちゃん!」



 我慢の限界にきたらしい神楽が銀時のマフラーを外しにかかるが、銀時はさせるものかとそれを阻止する。

 二人の攻防を眺めていた新八はやれやれと肩を竦めて、お茶を入れに台所に向かったのだった。









***********







 銀さんの手編み発言は実は羨ましかったから(笑)。ギャグのつもりだったのに余り面白くな……(汗)

 うちの銀さんってヘタレすぎ……(泣)。




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