NOVELU
□アネモネ(1)
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もしも、時間を巻き戻せるのであれば…僕は迷いなく、あのときを選ぶだろう。
『アネモネ』
今年の夏の最高気温を更新した日の夜。
深夜残業を終えて帰宅した僕は、タクシーから降りると、ゆっくりとマンションのエントランスホールに向かい、オートロックの鍵をあけ、中に入った。
いわゆる高級マンションに分類されるここは、エントランスにもエアコンがついており、ひんやりとした空気が身体を包む。
その日、プレゼンがなかなかの好感触だった僕は、鼻歌など歌いながら、ポストを開けた。
日経の夕刊、不動産関係のチラシ、役所からの封書…軽く内容を確認していると、ハラリ、と一枚の葉書が落ちた。
「?」
どうせDMの類かと思いながら拾い上げると、
『私立自由高等学校3年5組同窓会』
という角ばった文字が目に入り、途端に、胸に懐かしさがこみ上げるのを感じながら、その下の文字を追う。
『早いもので我々が卒業してから今年で10年を迎えます。そこで…』
――――要は卒業10周年記念に皆で久しぶりに集まろう!…というものだった。
高校時代の友人なんて、今付き合ってるのはアスランくらいだ。
あとは、年賀状で毎年無事を確認する程度で。
僕は数名のクラスメートを思い浮かべては彼らの10年後を想像してみた……いや、想像がつかない。
―――開催は約1ヵ月後。
まずは出欠の返事を幹事にメールなり、電話なり、FAXなりでご連絡を、と書いてある。
幹事の名前を見ると……思わず含み笑いが漏れた。
(………まあ級長だったし、いちばんマメそうだもんな…)
クスクスとまだ笑いをこぼしながら、エレベーターに乗る。
自宅のある階のボタンを押すと、すぐに僕は壁に寄りかかり、赤らむ頬を両手で隠すように覆った。
とたんに、胸の鼓動がドクドクとうるさいぐらいに頭に響きはじめた。
(………駄目だ、冷静になろうとしても、抑えきれない…他のことを考えようとしてもだめだ…)
さっきから僕の頭は一つの関心事でいっぱいだった。
彼女は――――ラクス・クラインは来るのだろうか、と。
(今更会っても…仕方が無いのに)
僕は数回かぶりを振って、自嘲気味に笑った。
「諦めが悪いよ…キラ・ヤマト」