NOVELU
□アネモネ(2)
1ページ/5ページ
2)
夏の夜特有の、生暖かく湿っぽい風が入ってくるが、日中締め切っている部屋の澱んだ空気を入れ変えたくて、キラはエアコンを入れつつ、数センチ窓を開けた。
カーテンを引こうとすると、ふいに窓の外に広がる夜景に気をとられた。
深夜でも絶えることの無い都会の明かりが煌びやかに輝き、なんとなく”そこに息づく生命”を感じさせ、安心感をもたらしてくれる。
最近はずっと、部屋には寝に帰るだけだったので、そんなことを意識することもなかった。
15階にあるキラの部屋からの眺望はなかなかのもので、ここに越してきた当初は毎晩のように夜景をつまみに酒を飲んでいたし、女性を口説くにも絶好の餌だった。
キラはネクタイを弛めると、ビールを一つ冷蔵庫から取り出し、プルタブをあげた。
プシュ、という音と共に、特有のほろ苦い香りが漂う。
冷たい液体を喉に一気に流し込むと、なんともいえない爽快感が身体を駆け抜けた。
口の端についた泡を軽く指で拭い、彼はソファに身体を預けながら、昼間のサイとの会話を思い出していた。