NOVELU
□アネモネ(最終章)
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最終章)
家に帰り、室内灯をつけると、キラはソファに倒れこんだ。
拒絶されるとは思っていたが、まさか気絶されるとは。
……そしてなにより―――修道女になっていたなんて…
彼女はもう未来を信じてくれないのだろうか。
神の愛に守られることをのみ至福と考え、人の愛は―――キラの愛は受け入れてはもらえないのだろうか。
それほど自分は彼女を絶望させてしまったのか。
だが、キラは何かが昼間から心に引っ掛かっていた。
何か、重要なことを自分は見落としている気がする。
「何だろう…一体」
ばらばらになったパズルのピースの様に、今日の出来事が断片的に頭に浮かぶが、情報の整理が出来ない。
基軸となるモノが見つからないのだ。
少しでも頭をすっきりさせようと数度かぶりを振ると、キラは携帯を開き、冷蔵庫からビールを取り出した。
「あ、カガリ?」
『…なんだ?キラか』
もう眠っていたらしく、少し掠れた声だった。
「寝てた?ゴメン…今日ラクスに会ったよ」
電話の向こうで、にわかに緊張の糸が張った。
『逃げられたろ』
「うん―――見事にね」
カガリはクスクスと、ざまあみろとでも言いたげに皮肉に笑った。
『でも、まあ良く見つけたな…誉めてやる』
「偶然だったんだ…ほんとにね」
『 には会ったか?』
―――ビールを持ち直すために、携帯を一瞬耳から離したので、最初の部分が聞こえなかったが…適当に話を合わせた。
「?………会ったよ?」
『え?』と、意外そうにカガリは声をあげ、一瞬の空白が訪れた。
『そうか…ラクスが会わせたのか…』
「??うん……」
カガリは何を言っているのだろうか…キラはわけが分からないまま、とりあえずそのまま進める。
『可愛らしい子だっただろう?―――私はもう3年くらい会っていないが、いまはもう6歳になってるはずだな』
「レオン?」
今日会った子供で名を覚えているのは彼だけだったのでとりあえず名を出してみた。
『そうだ―――ラクスにそっくりだろ』
―――――え?
キラは、言葉を失った。
『あの瞳の色とか、仕草とか…やっぱり似るんだよなぁ…親子って』
カガリはしみじみと言った―――おそらくラクスのことが大好きなカガリはレオンも猫可愛がりしているのだろう。
実際、産まれたばかりのころからレオンを見守り続けたカガリとしては、半分親のような心境で…目に入れても痛くない位の存在だった。
見落としていた大事な要素。
喉に刺さった魚の小骨のように、妙に引っ掛かって、気になって仕方が無かったこと。
――――そう、か…………
キラは途端に合点がいった。
あの憂いを含んだ、深い深い蒼い瞳……困惑の色を含むと尚、吸い込まれそうな程の。
そして困ったとき、誤魔化すように微笑む表情―――
――――みんな…みんな、ラクスに似ていたんだ……
『キラ…?』
カガリはいきなり黙り込んだキラをいぶかしむ。
もしかして、キラは知らなかったのだろうか?
(カマをかけられたのか?)
ふらつく頭をなんとか気力で支え、キラは早鐘のような鼓動を悟られぬようにしながら努めて冷静に聞いた。
「父親は……?」
――――いや……レオンの姿を見れば一目瞭然だった。