NOVELU

□knocking on the door (2)
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ラクスは教職員室の出入り口に立つと、ブラウスの襟を正してから息を吸い込み、扉に手を掛けた。


「失礼いたしま…」


「こらー!アスカ!待たないか!!」

「待ちませんよーへっへー」


ラクスの目の前で横開きのドアがいきなりガラリと開き、反射的に彼女は扉に掛けた手を引っ込めた。



「わわっ…とと…」

走ってきた勢いそのままに部屋を出ようとしていた少年は、寸でのところでラクスを避け、弾みで床へ転びそうになった…が、持ちこたえた。

優れた運動神経の持ち主のようだ、と彼女は妙なところに感心する。


「すいません…って、ラクス様!?」

顔を上げ、ぶつかりそうになった人物の姿を確認すると、アスカと呼ばれた黒髪をした深紅の瞳の少年は、慌てて体勢を整えた。

「お怪我はありませんか?」

「いえ、お気遣い無用ですわ」


―――『ああ…』、ラクスは頭を抱えたくなった。


どうして、こう、私は、つっけんどんな言い方をしてしまうのだろう。
彼を怯えさせてしまっただろうに………




ところが、少年は気を悪くした様子は全く見せずに

「良かった!…俺、1年C組のシン・アスカっていいます!」

と、自己紹介まで始めてくれて、人懐こい笑顔でニカっと笑った。

「高校編入組だから、入学してきたばかりで…右も左もわかんないので、よろしくお願いします!」
と、深くペコリと頭を下げる。

意外な反応に、ラクスは首を傾げた。

少年はへへ、と鼻の頭を指で擦りながら、ラクスの反応を待っている。


周囲に目を向けてみると、放課後なので廊下の人通り自体は少ないが、ラクス・クラインがまともに生徒と会話をしている、という珍しい光景を目にとめ、好奇の視線を送る姿が見かけられた。

ふいにラクスはこの少年から一刻も早く離れたくなり、何がよろしくなのかはわからないが、兎に角、頷いておくことにした。


冷静な、深い蒼い瞳でまっすぐに相手の瞳を見据えて頷くラクスのその様は果てしない威厳が感じられ、とにかく威圧感たっぷりに映ることを本人は自覚していない。


教職員室の中を伺うと、さきほどシンに怒鳴っていた人物――フラガ先生は、すでに諦めたのか、自らのデスクで仕事にかかっているようで、その右奥のほうではタリア・グラディス先生が顔をこちらに向け、ラクスに手招きをしていた。


そのままタリアのもとへ進もうと足を出したとき、シンが彼女の背中に向かい、大きく声を掛けた。



「ラクス様って…兄貴が言うとおり、噂と違ってあまり怖い人じゃないんですね!―――じゃ!」



ラクスは思わず振り返り、走り去る少年の姿を見た。

彼は怖くなかったのだろうか?―――私はいつもどおりにしていたのに…それに『兄貴』とは、誰なのだろう?…アスカ、というセカンドネームの人物は他に覚えが無い。


―――まあ、とるに足りない事に違いないと、彼女はため息をつき、再び前を向いた。
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