NOVELU

□桜守(1)
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この街には、大きな枝垂れ桜の木があり、毎年見事な花を咲かせていた。

『逢瀬の桜』、と呼ばれるこの木の樹齢は300年を超える。


ある民家の庭に植えられているその桜は、街の名物の一つとなっており、桜の季節に訪れる人は後を絶たなかった。

民家の庭と言っても、かなり広い敷地であるので、常に公園として一般解放されており、人々の目を楽しませていた。



その隣には、枯れてしまった桜が、寄り添うように立っていた。

樹齢1000年とも言われるこの桜の木は、背丈こそ立派なものだったが、ここ数十年、葉も花もつけていない。


病気になったとか、農薬を打たれてしまったとか、様々な原因を噂をされていたが、実際のところは謎のままだった。


この木が花を咲かせていた頃を知る人は

『それはそれは見事な花だった―――その様は、逢瀬の桜も叶うまい』と惜しそうに語る。
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