NOVELU

□桜守(2)
1ページ/4ページ

2)


まず思ったのは”やはりあれは人だったんだ”ということ。

本当に桜の精だと、どこかでそう思ってしまっていたから。



キラは今日撮った写真を家の暗室で現像しながら、シンと彼の姉だという、あの不思議な美少女のラクス・クラインに思いを巡らせていた。

他のどの事を考えようとしても、彼女の儚げな笑顔と、後半に見せた怒り―というよりは、今思うとあれは困惑に近かったのかもしれない―の表情が脳裏に浮かび、離れなかった。





『ラクスは自由高校の3年だから、明日になれば会えるんじゃない?』

『高校生、だったんだ…』

『なんだよ、いったい幾つだと思ったんだよ』


”あはは”と、シンは愉快そうに声をあげて笑い、立ち上がった。

『ま、嫌でも会えると思うよ、姉ちゃんは”有名人”だから』

そう言ってシンは軽く片方の眉をあげると、ひらひらと手を振る。

『じゃ、な。俺、用事の最中だったんだ』


『あ、うん…、本当、ありがとう』

『またな!』


手を振り去っていくシンの姿を思い出していたとき、ふ、と手元の写真に目が行った。


「あ…」

撮影していた時には気付かなかったが、枝垂れ桜の幹の向こうに、風に舞う桜色の髪の毛と、綺麗な横顔が小さく写っていた。

「ずっと、樹の向こうに居たのかな…」

自分は撮影をするとき、周りが見えなくなるくらいに没頭する傾向があるので、そのときの様子を想像すると、気恥ずかしい。ラクスがずっと自分の様子を見ていたのかもと思うと、自ずと顔が赤らんできてしまう。


残りのフィルムを現像している中でも、自然にラクス・クラインの姿を探してしまうが、どうやら先ほどの一枚だけらしかった。


キラはロープに吊るしてあるラクスの写った写真を外すと、手に取りじっと眺める。


シンは、何故ラクスが怒ったのか、については教えてくれなかった。自分で本人から直接聞けと、ただ、誤解は解いておいてやる、とだけ言ってくれた。


入学式は明日。

桜はまだ散らないだろう。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ