NOVELU
□桜守(2)
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まず思ったのは”やはりあれは人だったんだ”ということ。
本当に桜の精だと、どこかでそう思ってしまっていたから。
キラは今日撮った写真を家の暗室で現像しながら、シンと彼の姉だという、あの不思議な美少女のラクス・クラインに思いを巡らせていた。
他のどの事を考えようとしても、彼女の儚げな笑顔と、後半に見せた怒り―というよりは、今思うとあれは困惑に近かったのかもしれない―の表情が脳裏に浮かび、離れなかった。
『ラクスは自由高校の3年だから、明日になれば会えるんじゃない?』
『高校生、だったんだ…』
『なんだよ、いったい幾つだと思ったんだよ』
”あはは”と、シンは愉快そうに声をあげて笑い、立ち上がった。
『ま、嫌でも会えると思うよ、姉ちゃんは”有名人”だから』
そう言ってシンは軽く片方の眉をあげると、ひらひらと手を振る。
『じゃ、な。俺、用事の最中だったんだ』
『あ、うん…、本当、ありがとう』
『またな!』
手を振り去っていくシンの姿を思い出していたとき、ふ、と手元の写真に目が行った。
「あ…」
撮影していた時には気付かなかったが、枝垂れ桜の幹の向こうに、風に舞う桜色の髪の毛と、綺麗な横顔が小さく写っていた。
「ずっと、樹の向こうに居たのかな…」
自分は撮影をするとき、周りが見えなくなるくらいに没頭する傾向があるので、そのときの様子を想像すると、気恥ずかしい。ラクスがずっと自分の様子を見ていたのかもと思うと、自ずと顔が赤らんできてしまう。
残りのフィルムを現像している中でも、自然にラクス・クラインの姿を探してしまうが、どうやら先ほどの一枚だけらしかった。
キラはロープに吊るしてあるラクスの写った写真を外すと、手に取りじっと眺める。
シンは、何故ラクスが怒ったのか、については教えてくれなかった。自分で本人から直接聞けと、ただ、誤解は解いておいてやる、とだけ言ってくれた。
入学式は明日。
桜はまだ散らないだろう。