NOVELU

□桜守(5)
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5)


『隠しても無駄じゃ―――この婆の玉鏡にも異変が写しだされておる』

ラクスは、綺麗なラインの、理知的な印象を与える顎をあげ、じっと前を見据える。
彼女の前には厳しい顔をした老婆が座り、孫娘の、深く沈む蒼い瞳から寸秒たりとも視線を逸らさずに厳しい詰問を続けていた。


『我ら“桜守”は、能力者を再び誕生させ、この街のみならず、世を守っていく責を負っているのじゃ……能力者の生まれない”桜守”なぞ恥でしかないわ』

皺だらけの顔を苦々しく歪めて、言い捨てる祖母に、ラクスは唇に薄い笑みを浮かべて、肩を竦めた。

『でも、おばあさま……再び能力者を誕生させるために――”桜の呪縛”を解くために必要な鍵が、私には未だ見つかっておりません故、そんなことを仰られても困ります』

『隠しても無駄と言ったはずじゃ…お前の最近の衰弱もすでに聞き及んでおる』

『…わたしくには何のことだか』

――ここのところ毎日のように続く、果てない意見の応酬。
彼女は、疲れ果てていた。


いくら詰問されようと、ラクスはキラの存在を言うわけにはいかない――

私はいずれ消え行く者。
だから、貴方は、わたくしから離れてください…愛しい貴方……
貴方の身に危険が、及ばないように……
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