NOVELU
□桜守(最終章)
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最終章)
「キラ…?貴方のマンションに行っても、すぐに、見つかってしまうかもしれません……」
抜け道を走るキラの腕の中でラクスは弱々しく呟き、キラもすぐに頷く。
「早く、街を抜けないと…!」
「――私を、桜の下へ連れていてください」
「!?…で、も…逃げないと!ラクス……」
キラは驚きに思わず足を止めた。
困惑で丸くなった紫の瞳を見上げ、ラクスは静かに首を振った。
「ラクス……?」
肩で息をしながらキラは彼女の蒼い瞳を覗き込む。
ラクスには分かっていた。
自分の命はもう、風前の灯だと。
桜に祈りを捧げながら――一族の呪縛からの解放と、人々の幸せを願いながら……愛する人とは結ばれずに逝く――これだけで、この不幸だけで桜に願いは届くだろう――…この身の引きちぎられるような痛みを感じてもらえるならば。
「うん、わかった……ラクス」
キラの優しさに満ちた眼差しは、前世と変わらず愛しげにラクスを見つめる。
「キラ…ひとつだけ、約束…して、ください……。私がいなくなっても…どうか…貴方は後を追わないで……」
涙に滲むキラの顔は限りない優しさに満ちている。
彼は、この期に及んで尚、希望の光を捨てようとはしていない
キラは静かに首を振った。
「独りでなんて、逝かせないよ、ラクス」
「キラ……?」
「2人で、生きるんだ――ラクス」
キラは前をしっかりと見据えて、桜へと急ぐ。
桜の下に辿り着くと、静かにキラはラクスを地面に下ろし、枯れ桜に手を伸ばす。
「キラ…?」
蒼い瞳を揺らすラクスにキラはゆっくりと振り向き、安心させるように微笑んだ。
「桜が、僕らと話をしたがってる」
「桜、が……?」
2人は、枯れた桜をゆっくりと見上げた。