NOVELU
□日常風景
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『日常風景』
一台の黒塗りのエレカが、とある邸宅の門前で停車した。
ここは市の中心街からは少し離れているため、緑の豊かな――閑静な住宅街の一角である。
朝の空気は適度な湿り気を帯び、小鳥のさえずりが耳に心地よい。
白い軍服を身に纏った青年――イザーク・ジュールは車から降り立つと、足早に門へと急いだ。
すでにもう、屋敷内からはこちらは見えているのだろう、と監視カメラを横目でチラリと確認し、インタフォンのボタンへ手を伸ばす。
―――すると、門の向こうに、彼と同じデザインのザフトの白い軍服がみえた。
この家であの服を着ている人物といえば、唯1人―――前(さき)の大戦で、一度は敵として対峙し、後に志を同じくする者として戦ったパイロット、キラ・ヤマトその人である。
インタフォンへ伸ばした手を引っ込め、イザークは相好を崩さずに門前で腕組みをして待つ。
一方、キラは、ニコニコと機嫌が良さそうに笑い、手を挙げながら颯爽と近づいてきた。
「やあ、イザーク」
キラは内側からロックをはずして、門を開いた。
「ラクスは今、まだ着替え中だから、ちょっと中で待っててくれる?」
「議長と呼ばんか!……まったく貴様は…」
最初こそ威勢よく切り出したものの、どうにもキラ相手だと調子が狂い、語尾は彼らしくないトーンへ下がってしまった。
――あのアスランがいいように使われてしまうはずだ、と最近はかつてのライバルに同情的なイザークである。
「んー、まあでもここは、私邸内だから、ね――大目に見てよ」
そうしてまた、ニッコリ紫の瞳を細め、飄々と歩き始めた。