企画部屋
□愛情(2)
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その日の午後。
冬とはいえ、天気がとても良いし、比較的今日は暖かいからとラクスは庭でお茶を飲みたいと言い出した。
「風邪をお召しになったら、大変ですから…!」
ミリアリアはじめ、お世話役はこぞって反対したが、ラクスはなかなか聞き入れようとはしない。
「少しですから…大丈夫ですから…」
本に夢中になりながら、”大丈夫だ”と主張するばかりで。
困り果てたミリアリア達は、とうとうキラに説得役をお願いする事にした。
「キラ様、どうか止めてください」
「ラクス様が風邪を引いてしまいますー」
「ああ…うん……」
自分達の訴えに対して心此処にあらず状態のキラにミリアリアは首を傾げた――常に気を張っているキラらしからぬ態度である。
ひょっとしたら具合でも悪いのだろうか……?
「キラ様……?」
「ああ、ごめん…何でしたっけ?」
「………?」
ミリアリア達は、眉を顰め、顔を見合わせた。
結局、キラが面倒をみるし責任を持つから、ということにおさまり、ラクスは至極ご機嫌に午後のお茶を頂く事になった。
「お兄様にお茶を入れてもらえるなんて、いつ振りでしょう!?」
ラクスは寒空の下、ニコニコと笑顔を崩さずに暖かい紅茶を頂いている。
「…お兄様?」
ぼーっと遠くを見つめたままのキラを不審に思い、ラクスはティーカップをソーサーに置くと、テーブルに身を乗り出し、彼の額に手をそっと当てた。
「――――!ラクス様!?」
小さな手の暖かい感触にキラは思わず、身を引いた。
「―――熱は無いようですわね…?」
眉根を寄せて心配そうな表情を浮かべるラクスを見て、キラはよほど自分が呆けていたのかと気付き、無理やりに気を引き締めた。
「申し訳ありません…お嬢様。ちょっと考えるところがございまして……」
「何か、ありましたか?」
「え…いえ……」
心から心配しているであろうラクスに申し訳なく、思わずキラは目を逸らしてしまうが、たちまち哀しげな表情になるラクスに気付き、慌てて視線を彼女の顔に戻した。
湖水のように澄んだ蒼い瞳を彼はじいっと見据える。
”クリスマスに貴女と2人で外泊することになりました”と言えば……ラクスはどういう反応をするだろうか―――いや、彼女ならば純粋に喜ぶだろう。
悩むのは、自分に邪な感情があるからで……まさに”悩みの種”が一気に芽吹きそうな勢いだった。
「お兄様……もしかして、ミカド財閥のこと、お聞きになったのですか?」