企画部屋
□愛情(最終章)
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ミカドの屋敷の外に出ると、雪がもうすでにかなり降り積もっていた。
木々の枝にも雪の塊が溜まり、白い葉のごとく枯れ枝を彩っていた。
一面の銀世界に、ラクスは思わず感嘆の声を漏らす。
「わあ…綺麗ですわね…キラ」
両手を口に当て、蒼い瞳をキラキラと輝かせて感動している少女は、本当に、さきほど自分より遥かに年長の者をまんまとやり込めた少女と同一人物であろうか。
キラは、気負いから肩に入っていた力を抜くと、口元を緩めた。
「そうですね。―――ぐずぐずしていると、動きが取れなくなります…急ぎましょう」
丁度、目の前に滑り込んできたクラインの車に乗り込むと、2人は満足する成果を手に、雪の中静かに佇むミカド邸を後にした。
「おめでとうございます、ラクス様――シーゲル様もさぞお喜びになることでしょう」
「そうですわね、電話を入れておきますわ」
微笑むキラに笑顔で返すと、ラクスはバッグから携帯を取り出した。
「―――お父様?――はい、私です…はい……」
シーゲルと話すラクスの横で、キラはゆっくりと目を閉じた。
朝早かった所為か、気が抜けたと同時に、眠気が一気に襲ってきた。
ラクスの話し声は耳に心地よく、子守唄のように響いてくる。
キラの心は穏やかに澄み渡り――自然と笑みがこぼれた。
ラクスが話し終わり、キラの方へ顔を向けると、もう彼はウトウトと頭をフラフラとさせ始めていた。
「私のお願いが、ひとつ今日、叶いましたわ」
「――ん?」
キラの意識は眠気に覆われ、かなりもう、ぼんやりとしてきた。
――宿泊先のホテルまではあと2時間はあるだろう…。ゆっくりと眠れる――眠ろう。
ラクスはそんなキラの様子に、クスっと笑いをこぼす。
「今日…ホワイトクリスマスになってくれますように、と…そう願っていましたの」
彼女が呟いたときにはキラはもう夢の中に旅立っており、静かな寝息を立てていた。
「キラと…2人だけで過ごす、初めてのクリスマスですもの」
ラクスは蒼穹の瞳を嬉しそうに細めると、キラの頬にキスをし、彼の頭を自分の膝へ乗せた。
ラクスは、キラの整った顔の輪郭を、ゆっくりと指でなぞり、頬を滑らかに撫でた。
続いて、鼻筋の通った鼻、形の良い、程よい厚さの唇…。
「キラは…男の方のクセに、こんな綺麗でずるいです」
ラクスは、キラの唇をなぞった指を自らの唇に寄せると、そっと押し当てた。