企画部屋

□ホットレモンと少年の日
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『ホットレモンと少年の日』

〜「天使と(小)悪魔」番外編





それは僕が中学に入ったばかりの頃。

ラクスとアスランは高校二年に進級し、隣同士のクラスになった。
それすら気に入らずに、毎日苛々していた。



そんなとき、







「なあ、キラの姉ちゃん高校生だろ?」

まだ名前も覚えていないクラスメイトから呼び捨てにされた上に、いきなり話しかけられた。


「あー、うん。まあね」



きたか、と思った。

ラクスは街を歩いていても声をかけられることが多いし、お近づきになりたい男が、弟である僕に、弟妹を使って接近を謀ることは日常茶飯事だったから。
その度に適当にあしらってきたのに、また環境が変わったことで、こういう奴が増えるんだろうと思うとウンザリした。


(あー、ウザ)

聞いてくる彼の態度も気に入らず、心で悪態をつきつつも、顔ではニッコリ、天使のように微笑む。


「でも、僕、姉さんとあんまり仲良くないけどね」



面倒臭くて、そういうことにして適当に受け流すつもりが、相手は目の色を変えて身を乗り出して来た。

「俺の兄ちゃんが、メアド聞いて来いって五月蝿いんだ――教えてくれないかな?」


思わず身を引いた僕は、椅子からずり落ちそうになるが、何とか堪える。

呆れてものも言えない僕は、クラクラする頭を抱えた。


―――教えるわけがないだろ!…っていうか、僕の話を聞いたのか?こいつは…


「僕も知らないんだけど、聞けたら聞いとくよ」


やんわりと返して、教科書を取り出す。

”もう、授業が始まるからどいて”という、合図のつもりだった。

―――だが、残念なことにまったく彼には通じなかった。


「えー、兄ちゃんにボコらるよー!教えてくれよー」
「あ、俺も、俺もー」

空気の読めない相手に、さらに、便乗してくる輩もいて―――僕の怒りはもう、臨界点突破寸前だった。



―――「でも、キラの姉ちゃんって、付き合ってる奴がいるんだろ?」




僕が怒鳴る寸前に発せられた、誰かのその言葉で場が一瞬にして凍りついた。



「………」
「………」



「えーなになに、それ!」
「初耳ー!」


わずかの間の後に騒ぎ出す周囲の中、


「あ、知ってる。私のお姉ちゃんも言ってた…確かアスランっていったっけ?」

「あー、そうそう」

と、最初に言い出した奴が相槌を打つ。



「ほんとかよ?俺、兄ちゃんに言わなきゃ……」

さっきアドレスを聞き出そうとしていたヤツは半べそ状態だった。

よほど、兄貴が恐ろしいんだろう……。




「違うよ」

ポツリ、とけれども、しっかりと僕は答えた。


「アスランも、ラクスも、僕も…小さい頃から仲が良いから」

落ち着いて、なんでもない風に答える。

本当は苛々が募り、先ほど不発に終わった怒りが、また爆発しそうになっているのだけど……・



「え、でもお姉ちゃん、いつもあの2人一緒にいるって……」

「違うってば!」



とうとう爆発した僕の声は低い怒鳴り声となって出てきてしまった。

滅多に怒らない僕が、激怒したことで、皆呆気にとられて、シン――と、場が静まり返った。





「――あ、そうそうキラってシスコンなんだっけ?」


空気を読んだトールが慌てて輪の中に入ってきた。

「いつまでも、自分だけの姉ちゃんでいて欲しいーってやつなんだよな」


わざと僕をからかう口調で軽口を叩くと、ホッとした女子が、にわかに騒ぎ出す。



「そうなんだーキラくん、可愛い!」

「ちょっと、キラくんに何言うのよ!」


何故かいきなり女子同士の争いに変わったので、話題が深刻にならずにすんだ。


僕が感謝を込めて、気まずそうにトールをみれば、”気にするな”と、片手をあげてサインを送ってくる。

―ほんとに良いヤツだ。



――なぜ、あんなに怒鳴ってしまったんだろう。

でも、あれ以上ラクスとアスランが恋人同士という噂を聞きたくなかったし、彼等が学校で仲が良い様子なども知りたくもなかった。



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