NOVELU
□アネモネ(最終章)
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『君を愛しているよ…レオン』
キラは、突然に現れた子供を自然に受け入れ、愛していると囁いた。
本当は、駆け落ちの約束の日、現れたキラに『貴方の子ができた』と、告げるつもりだった。
けれども、それは叶わず―――結局、勝手に自分が産んだから―――ひょっとしたらキラには認めてもらえないのじゃないかと思い込んでいたのに。
「私は……いつのまにか、本来のキラ、という人物を見くびってしまっていたのですね…本当の彼は…愛情深く、人を傷つけることを誰よりも厭う人、だったのに」
――――――そして、何よりも、自分を愛してくれていた。
ラクスの手に、自分の頬を濡らすものが滴って落ちた。
「キラも……充分傷ついていたはずなのに…私は…」
気がつくと、レオンがラクスの隣に立ち、心配そうに顔を見上げながら、彼女の手を握っていた。
「母様……どこか、痛いの?」
「レオン…」
ラクスは我が子を抱き寄せ、その柔らかな髪に頬を摺り寄せた。
「大丈夫ですよ…大丈夫」
アスランは、レオンを見つめながらしみじみと呟いた。
「キラもびっくりしただろうがな…駆け落ち前に旦那の子だって言われたのが、実は自分の子だったなんて」
―――え?
ラクスは怪訝そうに、アスランを見た。
「アスラン、今…何て?」
「ラクスは知らなかったのか?―――――キラ、お前との駆け落ちの前の日、お前の元ダンナに”ラクスの中には俺の子が居る”って言われたらしいぞ?」
「しかも、流産した、なんて世間には嘯いていたしな」
カガリは苦々しく、顔を歪ませた。
「あ……」
片手を頭に当てると、ラクスは思わず口ごもる。
「あの人は、自分の子だと、そうキラに言っていたのですか……」
――――そんなはずはないのに、そこまであの人はキラを追い詰めたのか………
元夫の執拗な暴力を思い出すと共に、とうに忘れたはずの怒りがラクスの胸に静かに甦った。