NOVELU
□knocking on the door (2)
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昼休み、ラクスはいつも生徒会室で弁当を食べている。
天気の良い日には、いつも窓を開け放して、外の景色を眺めながら。
メガネを外した視力でもって、うすぼんやりとした風景を、ただ眺めているだけで、彼女は満足していた。
この1人の空間は心地よい。
彼女はこの素晴らしい眺望のために生徒会役員を了解したもののようだから、満喫せねば損だ。
「あ」
背後から声がしたので振り向くと、先日ぶつかりそうになった紅い瞳の少年が気まずそうに入り口のドアを開けたまま、固まっていた。
「すい…ません…教室、間違っちゃったみたいで…」
と、見るからに不安そうに頭をかいている。
「ここ、生徒会室なんですね…、大変失礼しましたっ」
「どこと、間違ったのですか?」
ラクスは箸を口に運びながら、弁当に視線を戻して尋ねた。
「え?あ…化学室…です…俺、今日日直なんで、早めに行って支度しなくちゃいけなくて…」
化学室は旧校舎だ。
此処は新校舎……根本から間違っている。
もじもじと指で遊んでいる様子では、おそらく場所が全くわかっていないのだろう、ラクスはおもむろに箸を置いた。
「ついていらっしゃい」
弁当箱をしまい始めたラクスにシンは手と首を振って後ずさりする。
「いいですよ…!お昼中で…」
「もう、終わりました」
先ほどから抑揚の無い声で言われるので、シンはひょっとしたら昼の時間を邪魔された事に腹をたてているのかと思い、おずおずと謝罪する。
「ほんっと、すいません…俺…昔から方向音痴で…怒ってます?」
「怒っていませんよ」
弁当箱を持ち、生徒会室に鍵をかけると、ラクスはシンの前に立って歩き出す。
なんとなく隣を歩けない威圧感を感じ、シンは普段なかなか見る事のできないラクス・クラインという人物を観察し始めた。
薄紅色の髪、抜けるような肌の白さ、長い睫に縁取られた、蒼い瞳が印象的な目…
どれをとっても、
――――迫力ある美人、だよなあ…
うん、それも兄貴が言っていたとおりだ、と1人シンは頷く。
「ラクス様、ごきげんよう」
「うげ!…ラクス様だ…」
「御機嫌よう…」
すれ違う生徒が漏れなく彼女に挨拶をしている。
ラクスも1人1人にちゃんと頭を下げているのだが、微かな動きなので、相手に見えているかは疑わしい。さらにまずい事には、まったく笑わないので、相手は完全に萎縮してしまっている。
――――損な人なんだよな…兄貴みたい。
「着きましたわよ」
思考が完全に他に行ってしまっていたシンは、ラクスとの距離がかなり離れていた事に気付いて駆け寄った。
ラクスが指している教室の上には”化学室”のプレート。
「ありがとうございましたっ!」
ペコリと頭を下げれば、もうすでにラクスは背を向けて、数メートル先を歩いていた。
壁掛け時計を見れば昼休み終了まであと10分。
「やべー!」
シンはバタバタと化学室に駆け込んだ。