NOVELU
□knocking on the door (6)
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「大丈夫?」
会長室に入ると、キラはラクスをソファに座らせ自らも隣に腰を下ろした。
道中、俯くラクスを抱えるようにして歩くキラの姿に唖然としている生徒がそこかしこに見られたが、全く気にならなかった。
それよりも早く、彼女を落ち着かせてやりたかった。
「―――ありがとう、ございました…」
下を向いたまま、ハンカチで口元を押さえ、消え入りそうな声でラクスは頭を下げた。
「助かりました…ほんとうに」
「大したことはしてないよ」
キラは少し赤くなって手を振るが、ラクスはゆっくりと、数度首を振った。
「あんな風に、泣いてしまう、何て…恥ずかしくて…あのままでは、私、どうしていいか、わかりませんでした。」
彼女自身、驚いているのだろう、恥ずかしさも手伝ってか、なかなか顔を上げようとはしない。
優しげに双眸を細めて、キラは彼女の頭を撫でた。
「大事、なんでしょ?人形が…。大事なものを壊されて悲しいのは、あたりまえだよ」
ラクスは自分の手に持ったピノキオ人形に目を移すと、やはり辛そうに目を伏せる。
蒼い瞳が、揺れる。
「まさか、貴方に助けて頂くとは…思いませんでした」
「そうだね――でも、僕は君に少なくとも2度、助けられているけどね……」
キラはゆったりと微笑むと、右手をそっとラクスの頬に触れた。
今までされた事が無いほど、優しい触り方――――ラクスの心臓は、ひとつ大きく跳ねるが、何故だか胸に不安が広がり、勢いよく、ラクスは立ち上がった。
「…私、今日はもう帰ります…人形も、直さなければいけませんので」
精一杯に冷静を装うが、自分の声が上ずってしまっていたような気がして、落ち着かなかった。
―――あのとき、首のとれてしまった人形を見て、自分が泣いてしまったことにまず、驚いた。
人形に対する思い入れがかなりあることは自覚していたが、人形の無残な姿を見てまさか、涙が出るとは思わなかった。
驚きと、恥ずかしさと――どうして良いかわからなくて、縮こまるしかなかった自分をキラが助けてくれた。
大きな身体で小さな自分を隠してくれた。
人に頼ることを良しとしない自分は―――生まれて初めて人に頼りたいと思ってしまった。
頬に伸ばされたキラの手を取りたい、と思ってしまった。
幼い頃から今までの自分が、それではいけない、という拒絶をラクスの内に芽生えさせ、とりあえずは今、キラから離れたかった。
認めてしまえば、自分が崩れてしまうと―――それを知っていたから。
自分に反感を持っていたはずの彼がどうして自分を助けたのか、そして自分がいつ、彼を助けたのか……疑問は胸に残るものの。
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