NOVELU

□桜守(1)
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この2本の桜の持ち主の一族は「桜守」と呼ばれている。

木の世話をするのみならず、女限定で不思議な力を持つ者が生まれることがあり、その人間は「桜の精」と呼ばれ、代々、街の巫女的な役割を果たしてきた。

巫女は一生誰にも嫁がず、一生を桜と街のために終えるのが風習となっていた。



だが、不思議なことに、枯れ桜が花をつけなくなったときから、能力者の誕生は途絶えてしまっていた。






『桜守』




端正な顔の少年が1人、一眼レフのカメラを構えて熱心に「逢瀬の桜」の周囲を何回も回っている。

シャッターを切る音が途切れる間もなく鳴り続けて、フィルムが無くなると慣れた手つきで手際よく交換し、また撮り続ける。


そのうちに疲れたのか、満足したのか、鳶色の髪の少年は両手をだらりと下げて、桜全体を下から見上げた。

満開に近い桜の木の上に、青空が見えて、青と桜色のコントラストが見事に映えている。



枝垂れ桜の形状もまた、趣があって見事だ。

枝は四方均等にバランスよく垂れており、綺麗なドーム型が格別に美しい。

少年は紫の宝石のような瞳を細めて、感嘆の声を漏らした。

「噂どおり…ほんとに綺麗な桜だな…」


「ありがとうございます」


独り言のつもりが、思わず返事が返ってきたことに驚き、少年は慌てて周囲を見回した。

ところが、いくら探しても人は見当たらない。


「誰かいるんですか?」

何処へともなく呼びかければ、枝垂れ桜の後ろから、1人の少女が顔を出した。


「はい」


そのとき、一陣の風が舞い、桜を激しく吹き上げた。

風に煽られた桜は惜しげもなく花を散らし――花びらが雪のように、2人の周囲を彩った。
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