NOVELU
□桜守(2)
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キラは、エプロンを外して暗室を出ると、そのまま写真を片手に、窓から見える風景を眺めた。
越してきたこの家は高台にあるので、眺望に優れており、『逢瀬の桜』も、視界に捉える事が出来た。
今は夕陽が当たり一面を照らしているので、桜の木も少々オレンジがかって見えており、昼間よりも物悲しく見える。
『また、だ…』
キラは胸の辺りの服を片手できゅっと握る。
ここに越してくる事が決まったときに見た資料の中の『逢瀬の桜』を、目にした時から、それを見る度、懐かしいような、切ないような…兎に角、胸に迫る強い感情が自分の中で湧きあがってくるのだ。
撮影をしているときにあんなに夢中になったのも、もともとの自分の性分という他にも、この要素が働いたからだったろう。
枯れた桜の樹、それに触れた途端に流れ込んできた負の感情、ラクス、シン…逢瀬の桜。
謎を構成する全ての要素が、点として散らばっていて、それらを繋ぐ線が一瞬、見えたような気がした。
そしてそれを解き明かす鍵が自分にあることなど、このときのキラは想像だにしていなかった。