NOVELU
□桜守(3)
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「ん、じゃーこれで、俺からの説明はお仕舞。このあと、生徒会集会があるから、それで今日のスケジュールは終了、な」
バン、と軽く教卓を叩くと、ムウは教室を飄々とした足取りで出て行った。
無駄な押し付けがましい話はなく、気負わないスタイルが生徒に人気のムウは、このクラスでの評判も上々のようだった。
先ほどの話が気になるキラにとっては、早くアスランに続きを、と頼みに行こうとしていたのだが、彼の姿はHR終了と同時に見えなくなってしまっていた。
全学年の生徒が多目的ホールへと向かう途中、彼の姿を求めてキョロキョロと視線を動かしていると、
「よ、ヤマトくん―キラ、って呼んでいいか?」
浅黒い肌に金の頭髪をした少年が、軽快に声を掛けてきた。
「俺は同じクラスのディアッカ。ディアッカ・エルスマン、よろしくな」
「あ、僕は、キラ…キラ・ヤマト。よろしく」
人懐こい笑顔を浮かべたその少年に、キラは一目で好感を抱き、差し出された手をすぐに握り返した。
「時に、お前……ここの生徒会長って、すげーイイ女だって知ってる?」
キラの耳元で声を潜める彼の鼻の下は伸びきっており、彼が女性好きであることがすぐに伺えた。
「いや…」
キラは、笑いを堪えながら、正直に手を振った。
正直、女性に興味が無いといえば嘘になるが、それよりも今は、先ほどのアスランの話で頭が占められており、他の事へ気を配る余裕が無かった。
ホールに到着した彼らは、学年別、クラス別に指定された席へ着席をする。
「そうだろうな、お前は街の外の人間だったしな。なんかたおやかーな感じで、でもかなり切れ者なんだよ。家柄もこの街一番の実力者だし……ま、俺達にとっちゃ、高嶺の花なんだけどな」
「そんなに有名なの?」
「この街では知らない奴はいないよ、きっと」
”ひょっとして…”
キラは、頭にその人物を思い描き―桜の花びらが頭の中で舞い始めたとき
「お、生徒会の連中だ」
ザワザワとしていた場内が、次第に水を打ったようになっていく。
驚いたことには、一列になって入場してくる先頭にアスランが居て、キラの方に気がつくと、曖昧な笑みを浮かべて軽く手をあげた。
女生徒の一部はそれを自分達への挨拶と勘違いし、歓声をあげ、アスランは気まずそうに顔を前へむけた。
それだけでも彼の人柄が感じられ、キラはクスリと、笑いを零した。
「キラ!来たぞ――生徒会長だ」
後ろからディアッカに袖を引っ張られる少し前に、すでに彼は、列の最後尾に――忘れもしない桜色を認めていた。