NOVELU

□桜守(4)
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「アスラン」

「シン!―――どうした?珍しいな、お前が俺を呼び出すなど」


シンのメールを読んだアスランは、自由高校近くの公園に、放課後の用事を手早くすませて駆けつけた。


「あいつ――どうしてる?」

”あいつ”が誰を指すのかは明快だ。シンはベンチに腰掛けてゆったりと空を仰いでいる。


「キラ、か…元気にしているよ。…というかお前、あいつ呼ばわりするなよ?年上だろう?キラは」

シンの性格上、アスランは無駄と知りつつも、顔をしかめて苦言を呈するが、案の定彼は気にすることはなしに、受け流した。


「じゃ、姉ちゃんの釘が上手く刺さったってことか」


皮肉交じりに明るく言うシンに対してアスランの表情は厳しいままだった。

「……とりあえずの応急処置にはなったろうな」


「…アスラン?」

彼のすっきりしない返事が気にかかり、シンは訝しげな視線をアスランへと送った。

アスランは、ふ、と薄く笑い、シンの隣に腰を下ろし、さきほどの彼と同じく空を仰いだ。
「ラクスは甘い――いつか、例の事はキラには知れることになると思う…それが桜の意志ならば」


シンは逡巡した後、地面を辛そうに見つめながら、擦れた声で呟く。

「俺は…姉ちゃんの希望通り、あいつが昔を思い出さなくても、いいと思ってた。姉ちゃんは”呪縛”を―直系の女性が短命って、いう呪いを、なんとかすると言ってたし…もう少し、時間があると、思ってた」

シンの手が、声が微かに震えていることに、アスランは気付き、眉をしかめて、シンの腕をとった。
「シン、どうした?――何があった?!」

そういえば、もともと色白なシンではあるが、今日の彼はさらに色を失い、青白い―白い紙のようになっている。

シンは紅い瞳を潤ませながら、アスランをゆっくりと振り返った。

「姉ちゃんの体の調子が――最近かなり悪くなってるんだ」

アスランは驚愕に目を開いた。


学校で見かける彼女は、普段どおりで、全く変化は感じさせなかった。

けれども、意志の強い彼女であれば、自分達をだますことなど容易だろう…素直なカガリならば、いくらいつも傍に居ようが誤魔化されてしまうはずである。

アスランは、自分の迂闊さに唇を強く噛んだ。

「だいぶ、早まっていないか?―――今まで一番若かったのは、お前の母親…30歳、だったろう?ラクスはまだ、17だ」

シンはひとつ頷いてから、片手で頭を抱えた。

「あいつが――現れたことが影響してるんじゃないかと思うんだ……もうあいつは”桜”に認知されてしまったから…」


アスランは、足元を見て枯れ枝を一本拾い、弄ぶ。
「ばーさまが動き出すな」

自らの持つ枯れ枝に、強面のシンとラクスの祖母の顔がオーバーラップして映り、アスランは顔を顰める。

あの影の実力者が一番煩いだろうし、最も”桜守”一族の復興を望んでいる人物だ――ラクスとは真っ向からぶつかってしまうだろう。


「今夜、姉ちゃん、ばーさまに呼び出されてるんだ、実は」

「相変わらず、こういうことには早い反応だな」
アスランは苦笑する。
「けど――ラクスがそんな状態じゃ……俺たちも黙ってるわけにはいかない、な」



シンは、硬い表情で頷いた。
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