NOVELU

□桜守(4)
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渦巻く憎悪、不安、焦燥―――


『”桜の精”と…なんと罰当たりな!』
『探せ―――2人とも、殺してしまえ!』
『祟りがおこるぞ――!』

留まるところのない、悪意の流入



『早く――貴方だけでも逃げてください……○○!』
誰かを呼ぶ、切羽詰った…けれども涼やかな声

『○○―――!!』
狂乱に泣き叫ぶ男――


大勢に追われる二人の顔が見えない……

―――これは誰だ?……




『サクラニフレナサイ』
暗号のように、突然、文字列が頭に浮かぶ。

文字がバラバラになり――また再編成され……それが繰り返される。

際限なく。


”何だ…?何?―――これは、何!?”


『サクラニ…フレテ…サクラニ……サクラニ…サクラニ…フレナサイ…サクラニ………』

煩い…煩い――――うるさいっ――――!!!





「―――ッ!?」

ガバッと体を起こせば、そこはいつもの自分の部屋の、自分のベッドだった。



肩で荒く息をしながら、不快感に首あたりに手をやると汗でぐっしょりと濡れていた。

「なんだよ…今のは……」

胸が忙しなく鼓動を刻み、ドクドクと血の奔流が体中を駆け巡っているのが分かる。



カーテンの隙間から射し込む光でもう朝なのだと分かり、一瞬焦るが、すぐに今日が土曜だと、気付きホッと息をつく。



妙にリアルな映像と、触れたことのある負の感情――


あの、枯れた桜に触れたときのものだ。



キラは最後に繰り返された言葉を思い出し、ぶるっと体を震わせると、ベッドから立ちあがり濡れたシャツを脱ぎ捨てる。

「なんなんだよ―――!ったくっ!」


洗濯機に当り散らすように、それを放り込むと、シャワーを浴びようと浴室へ向かった。



ふと、リビングのテーブルに無造作に置かれた写真に目が留まる。

入学式の前日――桜の木を撮ったときに偶然にラクスが映りこんでしまった写真だ。



彼はそれを手に取ると、ラクスの表情を凝視した。


「―――?」

妙な既視感を覚える、彼女の横顔……。

実際に会ったとか、そういうことではない。



「あ」

思わずキラは声をあげた。

――さっき夢に出てきた女性は………この顔ではなかっただろうか?


キラはタオルを肩にかけてソファへ座り込み――写真を凝視しながら、考え込む。

チクタクと時計の音のみが部屋に鳴り響き、静寂が彼を包んでいた。



「そう、だ…確かにラクス先輩と同じ顔をしていた…そして男のほうは……?」

茶色の髪、紫の瞳―――……



―――僕!?――――


そう、確かに、僕だった。






一度思い出してしまえば、先ほどのビジョンが鮮明に現れて、詳細な部分も思い出された。

追われて、逃げ惑い――そして追い詰めらて……



そこまでの映像しかなかった。




キラは髪をかきあげた手を額で止め、写真を片手に、じっと考え込んだ。

『あれは、なんだ…?誰かの記憶?―――僕の記憶?』

――分からない



桜にまつわること、ラクスたちに関わる事全て―――キラは、知りたいと思いながらも、ラクス自身に止められ、思い留まっていた。
どこか怖いと思う自分も居て、あえて踏み込もうとはしなかった。

でも―――


『けれども、僕はきっと、知らなければいけないんだ……』



キラの瞳の紫が、決意を秘めて輝いた。



「決めた」
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