NOVELU
□桜守(5)
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「…キ……ラ……」
「!?」
微かに聞こえた言葉に、キラは息を呑む。
「今…僕の、名を?」
ラクスが眠っている布団の傍らに座っているキラは、先ほどから血の気のない彼女の顔を心配そうに眺めていたのだが、ふいに呟かれた自分の名に驚き、顔を赤くして口に手をあてた。
「なん、で……」
眠るラクスの顔は悲痛な表情を浮かべて、固く閉じられた目の端にはうっすらと涙が滲んでいる。
”君は…どうしてこんな悲しそうな表情をするんだろう……今だけじゃない、いつも、笑っているときでさえも、君は絶望を抱えているんだ”
たまらず、指を彼女の頬に触れさせようとしたとき、閉じられていた瞼が揺れて、ゆっくりと澄んだ湖水のような蒼が現れた。
「ラクス……先輩?」
ぼんやりと、焦点の未だ定まらない瞳で自分の傍らに目を向けたラクスは、キラの姿と、自分が何処にいるのかを理解すると、驚愕に目を見開いた。
「キラ…!どう、して…!?――な…何故、貴方がここに……!」
ぐらり、と頭が揺れた。
だんだんと、ぼんやりしていた意識の中に自分が倒れたときの様子が思い出されてくる。
桜の下での撮影中、急に過去のビジョンが見えたかと思うと――いつのまにか意識を失った、のだった。