NOVELU
□桜守(5)
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ラクスはすぐに面を上げると、
「――貴方はここに居てはいけません…すぐにお帰りなさい!」
苦しそうに胸を押さえ、瞳を歪めながらも、視線だけは強く――キラを真正面に見据える。
「ラクス先輩…?」
ラクスのただならぬ様子に訝しげな視線をむけると、起き上がろうと半身を起こした彼女がまた、ふらりと布団に倒れこんだ。
「先輩!―――ダメですよ!」
キラは慌てて駆け寄り、ラクスの体を抱き起こした。
信じられないほど軽い、細い身体。
彼女とこんな近くで接したのは初めてで、彼女の匂い立つほどの甘い色香に陶酔してしまいそうになるキラは、瞬間、狂おしいほどの彼女への欲望を覚えた。
ふいに彼女の胸元が視界に入り、キラは赤面をする―――ラクスは先程、使用人に寝巻きに着替えさせられていた。
ただ、着物なのでかがむと合わせの合間から胸の谷間がほんの少し覗くのだ。
慌てて視線を逸らすと、思わず反応してしまった身体を隠した。
こんなときに、と自らに舌打ちをするが、それほどまでに自分がラクスを欲していたと知る。
「ああ…シン…シンは何処です!?」
我を失うほどに動転しているラクスに、キラは彼女が、何か重要なことから早く、自分を遠ざけようとしているような、そんな違和感を感じた。
「シンは買い物に行っていると、さっき家の人が…」
「姉ちゃん!――どうしたの?」
タイミングよく帰ってきたシンが、布団に倒れ込み、桜色の髪を乱している姉の様子を見て、血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「シン!」
ラクスは、ほんの少し表情を緩めると、自分の体を支えるシンの腕を掴み、声を抑えながらも、低い声で、しっかりと彼に伝えた。
「シン――早く、キラを家の外に……!【あの人たち】が来ないうちに!――早く!」
「わかった…わかったから」
シンが安心させるように深く頷くと、気が緩んだのか、ラクスの意識は再び混濁の世界へ落ちていく。
「先輩!」
キラの悲痛な声を耳に残して、ラクスは再び倒れこんだ。