NOVELU

□桜守(6)
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ある年、希代の能力を持つ【桜の精】が、生まれた。

その様はまさしく桜の化身。

成長した彼女は桜色の髪に、理知的な蒼い瞳の美少女…儚げな表情までもがすべて桜そのものだった。
彼女は優れた「巫女」だった。

【桜の精】は一族直系の女子にしか生まれない貴重な存在で、何十年も誕生しないこともあり、そのたびにこの土地は危機に陥っていたという。


それだけ、大衆は【桜の精】に頼り切っていた。



【桜の精】は、幼い頃から神殿の奥深くに隠され、直接他人と関わる事はなく――一生を独り身で終わらせねばならない。

もしも、禁を犯せば、桜が怒り、祟りが起こると―――そう、言い伝えられてきた。



しかし、この希代の能力を持つ少女は好奇心旺盛な少女であり、ある日、こっそりと神殿を抜け出し”外”の世界へ足を踏み入れた。

少女にとっては目に映るもの全てが新鮮で、目を輝かせながら付近を歩いていた――そのうちに、自らの能力の源とされる2本の桜の下へと辿り着いた。

少女は桜に触れ、桜との交流を図る―――優しく、労わるかのような桜の気。
彼らは【桜の精】として生まれた彼女の境遇を憂いてさえいた。


自然と涙がこぼれて泣き崩れていたときに、1人の絵描きが通りかかった。


『どうしたの?』

少女が振り返れば、鳶色の髪の青年が陽光の中、静かに佇み、じっと彼女を見つめていた。
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