NOVELU
□桜守(最終章)
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桜の周囲は不思議なくらいに人通りも無く――静まり返り、まるで、異空間のような静寂が広がっていた。
「キラ…」
息も絶え絶えなラクスは、苦しそうに胸のあたりを掴んだまま、キラを心配そうに見詰める。
「大丈夫だから…ラクス」
キラはそっとラクスへ手を差し伸べると、そのか細い手をしっかりと握った。
”君、は…僕達をずっと、待っていたんだね……ありがとう”
キラは穏やかな微笑を浮かべながら――桜へそっと、触れた。
まず、届いてくる憎悪のビジョン――
これは、前に彼が触れたときに感じたものだ。
――続いて感じる、悲しみと慈しみ…これ、は…きみ、の……感情なの?
桜は――【桜守】という存在を作ってしまった自分を悔やんでいた。
村人のために良かれと思ったことが、逆に、彼らが【桜守】に囚われ、頼り切ってしまうようになったのだ。
【桜の精】に生まれた者は我が身を嘆き――桜を恨む。
ある【桜の精】が、恋を知った。
――桜は、彼女の幸せを心から望んだ。
けれども、それは叶わず……村人に、そしてあろうことに身内である【桜守】に追われ、恋人と共に命を落とした。
桜は嘆く…嘆き悲しむ。
村人に、【桜守】に絶望し――――悲しみのあまりに桜は花を咲かすことが出来なくなり、【桜の精】も誕生することは無くなった。
けれども、桜は望む――輪廻転生があるのであれば、彼らが生まれ変わり、再びこの地で出会うことを。
『逢瀬の桜』は目印だった。
生まれ変わった彼らを呼び寄せるための―――再びの逢瀬のための。
桜は語る。
『あなた方に恨みがあるから、能力者が生まれなくなった、などという事はまったくありません』
”では――何故、【桜守】の女性は短命なの?―――なぜ、今、ラクスが命を落としそうになっているの?”
『私が、枯れてしまったことが関係しているのかもしれません』
”どうしたら――どうしたらラクスを助けられるの!?”
『…わかりません………』
”そん、な…”
『でも…もしかしたら…』