NOVELU

□桜守(最終章)
3ページ/10ページ


桜の周囲は不思議なくらいに人通りも無く――静まり返り、まるで、異空間のような静寂が広がっていた。




「キラ…」

息も絶え絶えなラクスは、苦しそうに胸のあたりを掴んだまま、キラを心配そうに見詰める。


「大丈夫だから…ラクス」

キラはそっとラクスへ手を差し伸べると、そのか細い手をしっかりと握った。


”君、は…僕達をずっと、待っていたんだね……ありがとう”

キラは穏やかな微笑を浮かべながら――桜へそっと、触れた。







まず、届いてくる憎悪のビジョン――

これは、前に彼が触れたときに感じたものだ。


――続いて感じる、悲しみと慈しみ…これ、は…きみ、の……感情なの?





桜は――【桜守】という存在を作ってしまった自分を悔やんでいた。

村人のために良かれと思ったことが、逆に、彼らが【桜守】に囚われ、頼り切ってしまうようになったのだ。


【桜の精】に生まれた者は我が身を嘆き――桜を恨む。



ある【桜の精】が、恋を知った。

――桜は、彼女の幸せを心から望んだ。




けれども、それは叶わず……村人に、そしてあろうことに身内である【桜守】に追われ、恋人と共に命を落とした。



桜は嘆く…嘆き悲しむ。


村人に、【桜守】に絶望し――――悲しみのあまりに桜は花を咲かすことが出来なくなり、【桜の精】も誕生することは無くなった。


けれども、桜は望む――輪廻転生があるのであれば、彼らが生まれ変わり、再びこの地で出会うことを。



『逢瀬の桜』は目印だった。

生まれ変わった彼らを呼び寄せるための―――再びの逢瀬のための。



桜は語る。
『あなた方に恨みがあるから、能力者が生まれなくなった、などという事はまったくありません』


”では――何故、【桜守】の女性は短命なの?―――なぜ、今、ラクスが命を落としそうになっているの?”


『私が、枯れてしまったことが関係しているのかもしれません』


”どうしたら――どうしたらラクスを助けられるの!?”


『…わかりません………』


”そん、な…”


『でも…もしかしたら…』
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ