NOVELU
□傷跡
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傷つけたい、と思ったわけではない。
陰鬱に沈む自分の心を誰かに救われたいと思ったわけではない。
『傷跡』
その日、その教室に来たのはほんの偶然だった。
高校へ入学して間もないラクスは、生徒会会議中の兄を待っている間の暇つぶしにと校内を探索しているうちに、たまたまその教室へ辿り着いた。
あまり人の出入りのない旧校舎。
その2階の奥にある、元は視聴覚室として使われていた教室。
なんとなく気になった彼女はドアを開けて中を覗き見た。
『旧校舎は絶対行くんじゃないぞ!』
と、顔を顰めながら、懸命に言い含めていた兄の言葉はそのときのラクスの頭にはなかった。
真っ暗な教室内を覗けば、微かに何かの気配がする。
まだ夕方というのに、ぴっちりと閉められたカーテンを逆に不思議に思い、ラクスは奥へと進んでいく。
すると、何かが軋む音と人の声らしきものが漏れ聞こえてきた。
(人がいるんでしょうか…?)
さらに足を進めると
「…っんん…はぁ…っ」
淫猥な女の声と、荒い息遣い、そしてソファの軋む音がはっきりと聞こえた。
「―――!?」
ラクスは、頬を赤らめ、小さく息を飲む。
(もしかして…)
思ったときには時すでに遅く、窓際近くに置かれたソファの上でもつれあう男女の姿をしっかりと目にしてしまった。
カーテンから僅かに差し込む光に反射する埃が、上空でキラキラと輝き彼らの上に落ちていき、また舞い上がる。
ラクスはすぐさま目を背けた。
(…ど、どうしましょう……出て行かなきゃ…)
男女の生々しい性の場面を初めて見てしまった恥ずかしさと罪悪感に襲われたラクスは、彼等に気付かれないうちに立ち去ろうと、そろり、と足を後ろに出した、が
――ガタン!
転がっていた椅子に足を引っ掛けてしまった。
「――――!!」
ラクスは思わず目を瞑り体を固くする。