NOVELU

□傷跡
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そのとき、


「ラクス!!」

兄のアスランが、息を弾ませながら、ラクスの方へと駆けてきた。



「兄様……!」

思考を中断させられたラクスは、顔をあげてアスランの方を見るが、兄の形相に視線を逸らして眉尻をさげた。


(…あのお顔は…怒っていますわ…兄様……)


「あれほど、旧校舎に近づくな、と言ったのに……!」

碧の目に怒気を滲ませながら、足音荒く歩いてくるアスランに、ラクスは素直に頭を下げた。

「すみません、兄様…」


「ん…まぁ、お前が無事だったなら、いい――だが、もう、近づくんじゃないぞ」


もともと妹に弱いアスランは、ラクスがすっかりしょげ返ってしまっていることに気付くと、すぐに態度を変え、労わる様子を見せた。



アスランが怒っているときはとりあえず謝る―――、これは、ラクスが昔から持っている知恵だ。

反論を言おうものなら倍になってお小言が返って来る――それは御免被りたい。



妹の手を引こうと顔を覗き込めば、いつもと違う様子にアスランは首を傾げた。


「――?なんだか顔が赤いぞ?」

「―――え?きっ…気のせいですわ、兄様…それより早く帰りましょう!」


慌てて前を歩き始めるラクスのぎこちない態度がいまひとつ腑に落ちないアスランだったが、とりあえず早く家に帰ろう、ということに対しては異論は無い。


アスランはすぐにラクスの後を追った。





白いワイシャツを羽織った、鳶色の髪をした少年が、廊下の壁に寄りかかり、紫の双眸を細めてその光景を見ていたことには、2人とも気付く事はなかった。
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